重なりあう時間 | ナノ
熊野編 拾肆





肆拾肆話
 積み重なった些細な事々






一難去ってまた一難。
この状況はまさにそうなんじゃ無かろうかと浅水は思案した。
何せ、景時の爆弾発言だ。
一部の人以外知らない事実を口にされて、驚かないはずがないだろう。
現に、九郎の視線は景時よりも浅水に釘付けだった。


「……お前、本当に女なのか?」


しばらくしてから、ようやく発せられた九郎の声は、心なし力がなかった。
それほど浅水が女だったことが衝撃的だったのか。
だが、九郎の問いかけは、事実を知らない人たちの代弁でもあった。


「さて、どっちに見える?」
「なっ!ふざけてないで、真面目に答えろっ!!」


薄く笑みながら答えれば、その返答が気に入らなかったのか、逆上した声が返された。
ちょっとした冗談も通じない相手に、浅水は肩を竦めて面白くなさそうに鼻を鳴らした。


「私としては、そんなことよりも景時に聞きたいね。……どうしてわかった?」


浅水が景時に尋ねた言葉は、そのまま九郎の質問の回答でもあった。


「え?だって、男と女の人じゃ、筋肉の付き方とか違うでしょ?それに、翅羽ちゃんを見るヒノエくんの目、かなぁ?」
「ヒノエの?」
「うん。だって、ヒノエくんって男の人はどうでもいいって言ってるのに、翅羽ちゃんにはそんなことなかったからね」


景時の言葉に浅水は少なからず納得した。
確かに、着物で誤魔化していても、筋肉までは誤魔化せない。
さすがは戦奉行というところか。
だが、それ以上に納得せざるを得ないのはヒノエに関しての話だった。
確かに、ヒノエは常日頃から野郎には興味ない、と断言し、女性を口説いてばかりいる。
景時にそう見えていたのなら、確実に自分が女だと知れたのはヒノエのせいだ。
キッとヒノエを睨むが、浅水の視線から逃れるようにどこか遠くを眺めている。


(後で覚えてなさいよっ)


内心でヒノエへの復讐を誓いながら、ばれてしまった物は仕方ないと腹をくくる。
これ以上隠そう物なら、逆にどこかボロが出そうだ。
だが。


「私が女だと気づいていたのは景時だけじゃないよね?」


そう言って、浅水が視線を巡らせた先にいたのはリズヴァーン。
確認のために首を傾げてみれば、ゆっくりと縦に首が落とされた。
九郎と望美の師匠であるリズヴァーンが、男と女の違いを知らぬはずがない。
黙っていたのは、言うつもりがなかったか、もしくはその必要がなかっただけか。
おそらくは、そのどちらも正解なのだろう。
寡黙な彼は、多くを言わない。


「先生、知っていらしたらどうして教えてくれなかったんですか!」
「九郎、本人が口に出さぬ事を、他人がとやかく言う物ではない」
「そ、それはそうかもしれませんが……」


相も変わらず、リズヴァーンの言うことだけは素直に聞く奴だ。
それには浅水も呆れ返った。

そして、もう一人。

その人物の目の前に立ち、身長差のせいで少しだけ見上げる体勢になる。
それに何事かと、周囲の目が寄せられる。


「将臣の場合は野生の勘、ってやつかな?」
「でも、本当にそうかはわからなかったんだぜ?」


ニッ、と口角を釣り上げて訊けば、頭を掻きながら将臣は言い訳じみたことを言った。










またしても九郎の扱いがぞんざいに……(苦笑)
2007/3/6



 
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