重なりあう時間 | ナノ
熊野編 拾参





肆拾参話
 込み入った事情






「翅羽さんっ!」


ヒノエから少し遅れて、望美たちが崖から降りてきた。
誰しもが不安の色を浮かべているが、それはそうだろう。
崖から落ちたこともさることながら、真っ先に浅水を追って行ったのは、最近不仲だったヒノエだ。
例え、浅水自身が無事だったとしても、その後のヒノエとのやりとりが心配だった。
ところが、望美たちが見たのは抱擁しあっている二人の姿。
不仲だったのでは?と思わず疑問を覚えてしまいそうになる。


「よかった、無事だったんですね」


みんなが来たことを知ると、ヒノエは浅水から離れた。
ぐるりと浅水を囲んで無事を確認すると、望美はぺたりとその場に座り込んだ。


「本当に、よかった……」
「うん、望美が白龍に頼んでくれたんだよね?だから助かった。心配かけてごめん」


しゃがみ込んで望美と同じ目線になると、素直に礼を述べた。
その際、白龍を見れば、望美も浅水につられて白龍の姿を見る。
突然成長した白龍に驚くのかと思いきや、望美はその姿を見て破顔した。


「白龍、翅羽さんを助けてくれてありがとう。成長、したんだね?」
「うん。神子のおかげで天が近くなった」


望美は白龍が成長する事を知っていた、らしい。
らしいと言ったのは、小さかった白龍がいきなり成長したのに、それに驚く風でもないこと。
望美が自分のように神気を感じられるとは思えない。
普通なら、突然姿が変わってしまったら驚くはず。
そう、九郎を始めとする八葉のように。


「何だ、そいつは?」
「えっと……白龍、みたい」


しどろもどろになりながら答える望美に、次々と意見が飛び交う。
白龍は子供だった、とか小さい白龍はどこに、とか。
さすがに、敦盛が行方不明発言を始めたときには、将臣が彼を宥めた。
最終的に、弁慶が白龍が成長した理由を聞いた。
それによって、望美の努力が報われたのだと、無理矢理まとめてその場のみんなを納得させた。


「そういえば、ヒノエくん。翅羽さんと仲直りできたんだね」
「あぁ、まぁね」


ぽん、と手を叩きながら先程見た光景を思い出す。
さっきまでは、同じ場所にいるだけでも痛いくらいの空気が漂っていた。
だのに、今はそれがない。
となると仲直りしたと考えられた。
ヒノエ自身も、望美の問いかけにあっさりと頷いたことで、更に信憑性が高まる。


「よかったですね!翅羽さん」
「あ、うん」


まるで自分のことのように喜ぶ望美に、浅水は少々とまどった。
これは自分とヒノエだけの問題のはずだ。どうして望美が喜ぶのだろうか?


「だが、いくら嬉しかったとはいえ、男同士でいつまでも抱擁しているやつがあるか」


九郎のその言葉に首を傾げる。
その後、自分の恰好を見て、あぁ、と納得した。
そういえば、今の自分は性別を誤魔化すような恰好をしていたのだ。
それに、自分が女だとは言っていない。
九郎が誤解したままであっても、それは当然のこと。


「は?九郎、アンタ何言ってんの」
「だ、だから男同士でいつまでも抱擁など、普通は考えられん」
「ちょっ、ちょっと待ってよ九郎」

ヒノエと九郎の間で口論が始まりそうになったが、それを景時が慌てて仲裁に入る。
意外な人物の出現に、二人とも思わず口を閉ざした。


「九郎は翅羽ちゃんを男って言ってるけど、翅羽ちゃんって女の人でしょ?」


景時のこの言葉に、真実を知る人以外はあんぐりと口を開いたまま、しばらく閉じることが出来なかった。










景時鋭い(笑)
2007/3/4



 
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