重なりあう時間 | ナノ
熊野編 拾弐





肆拾弐話
 詫びの言葉はせめて尊大に






浅水と白龍が話をしていると、次第に人が近付いてくる気配がした。
多分、みんながどこからか降りてきているんだろう。


「浅水!」


突如として呼ばれた自分の名前に振り返れば、真っ先に目に入ったのは鮮やかな、朱。
思いもよらない人物の登場に、浅水は狼狽えた。
熊野へ戻ってきてからつい先程まで、自分のことは避けていたはず。
だから、今だっててっきり望美の側に付いていると思っていた。
浅水は近付いてくる朱を、ただただ見つめていた。


「浅水っ、無事か」


その言葉と同時に、痛いくらいきつく抱きしめられる。
久し振りのその感触に、不謹慎ではあるが嬉しく感じた。
恐る恐る手を背中に回せば、こちらも驚いたように身を震わせた。

何だ。
彼も自分と同じだったんだ。
どう接して良いかわからなかっただけ。

そう思うとおかしくて、思わず吹き出した。
そんな浅水の様子に、ヒノエは顔をしかめた。


「お前ね、もしかしてたら死んでたかもしれないってのに、何で笑ってるんだよ」
「いや、ちょっと」


くつくつと肩を震わせながら笑い続ける浅水に、ヒノエは呆れたように溜息を吐いた。
しばらくして笑いが収まると、浅水は真剣な顔で彼を見た。
そうすれば、それにつられたように自然と、ヒノエの顔も真剣になる。


「あのさ、京でのことだけど……」
「ちょっと待った」


誤解を解こうと口を開けば、それをヒノエに遮られる。
せっかくの機会、これを逃せばいつまた話せるかわからない。
意地でもヒノエに話さなくては、と意気込めば、目の前の頭が下がった。
思わず首を捻れば、その後に言葉が続けられる。


「悪かった」


あっさりと言われた謝罪の言葉に、ぽかんとする。
謝ってもらう理由が見付からない。


「京でのこと。アレ、どうせあいつが何か言ったんだろ」


それに引っかかるなんて、オレらしくもない。とぶつぶつ呟く彼に、あぁ、とようやく何に対しての謝罪か悟る。


「私こそ、ごめん」
「お前が謝る必要はないさ。オレがこっちに戻ってきてから、お前が何か言いたげだったのは知ってたんだ。けど、それを避けてたのはオレ自身だから」


それも含めてごめん、と再度謝られてはこちらが折れるしかなかった。
これ以上話を長引かせれば、ヒノエがいつまでも謝るのは目に見えていた。


「わかった。じゃ、もうそれは無かったことで」
「そうだな。……けど、今回のことは謝罪してもらいたいね」


今回のこと、と言われても浅水には何のことかわからない。
京でのこと以外に、何か謝らねばならないことがあっただろうか?


「ホントにわからないわけ?ったく、オレに心配かけたことは謝らなくてもいいってことかよ」


大袈裟に溜息を吐いてみせると、浅水はポンと手を打った。
望美を助けて一人、崖から落ちたことを言っているのだ。
そうとわかれば話は早い。


「心配かけてごめん」
「わかればいいんだよ。お前がいなくなるかもって思ったとき、目の前が真っ暗になった」


浅水を抱きしめて、肩口に顔を埋めて話す声が少しだけ、震えていた。
あぁ、それ程までに心配させてしまったのだと、申し訳なく思った。


「本当に、ごめん」


耳元で囁いて、きつく抱き返した。


「二人とも、よかったね」


近くで見ていた白龍が笑顔で言った。
その笑顔に覚える罪悪感。



嘘をついたつもりはない。



けど、真実を話したわけでもない。



寧ろ謝らなければならないのは、自分なのに。










ようやく仲直り!!
2007/3/2



 
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