重なりあう時間 | ナノ
熊野編 拾壱





肆拾壱話
  風でなびいたあなたの髪が、わたしの頬をくすぐった






いつまでたっても訪れない衝撃に、浅水は眉を顰めた。
いくら何でもおかしすぎる。
落下を始めてから数分はたっているはずだ。
それとも、目を閉じているから時間が長く感じるだけで、目を開ければ直ぐさま地面が見えるだろうか。
浅水は仕方なく目を開けた。
すると、目の前には銀髪の成人男性の姿。
よく見れば、腕はしっかりと自分の腰に回され、抱きしめられている状態。
だが、そんな状況よりも、どこかで見たことのある顔に、思わず首を傾げる。


「あぁ、よかった。気が付いたんだね?」


ただ単に、目を瞑っていただけ、とは敢えて言わなかった。
頷くことで返事にすれば、程なく二人とも地面へと着地する。
しっかりとした地に立って、改めて自分の体を見下ろすが、どこにも怪我は見当たらない。


「助けてくれてありがとう。えっと……白龍?」


目の前の人物に礼を言いながら、自信なさげに名を呼んでみる。
八割方合っているとは思うが、もし間違えていたらと思うとどうしても断言できなかった。


「うん、そうだよ。神子が五行を集めてくれたおかげで成長できた」
「そっか。よかったね」


笑顔で返される返事に、やはり自分の予想は当たっていたと胸を撫で下ろした。
成長はしても、その身から感じられる神気までは変わらない。


「成長できたおかげで、わかったこともあるよ?」
「わかったこと?」


突然何を言い出すのか。
その真意を測りかねて、思わず首を傾げた。


「うん。あなたが神子の探していた幼馴染み──七宮浅水──だね?星の一族の分家にして、最後の継承者」
「え……」


ぎくり、と体が固まった。
次いで、信じられない物を見たかのように白龍を見やる。

どうして?

目は言葉よりも雄弁に物語っていた。


「あれ、違った?」
「どうして、そう思った?」


直ぐさま返ってこない返事に、白龍は間違ったのかと首を捻る。
浅水は、明確な返事をしないまま、固い口調で逆に問いかけた。


「どうしてって……神子をこちらへ呼んだとき、一緒に来た人と同じ気を感じたから。今まではあなたを加護する神気が強すぎて気づかなかった」


神々に愛されているんだね、と続けながら言うその顔は、どこか嬉しそうだった。
それは、自分を見付けたことを望美に告げれば喜ばれるからだろう。
だが、まだ望美に自分のことを話されては困る。


「白龍」
「何?」
「私のことは、まだ望美に話さないで」


そう告げると、白龍は困惑した表情を浮かべた。


「なぜ?神子はあなたを心配しているよ?」
「ちゃんと、時期が来たら私から言うから。だから、まだ言わないで」


浅水の真剣な様子に、白龍も何かを悟ったのか、大人しく了承してくれた。
だが、次の言葉に、再び浅水は体を硬くした。



「なら、ヒノエは?ヒノエは貴方のことを知ってるの?」



何を、とはこの場合言わなくてもわかる。
自分が望美の探している幼馴染みであることは、ヒノエには話していない。
それ以前に、ヒノエは自分が望美と同じ異世界から来たことすら知らない。
勿論、自分が星の一族の分家だとも。
自分のことを知っている弁慶にも、幼馴染みのことは教えていない。
だけど弁慶ならば何かしら感づいているのかもしれない。
それらしいことは、京にいたときに態度で示してしまっている。



「……ヒノエも、知らないよ」



小さく呟いてから、再び白龍への口止めも忘れなかった。










白龍成長!小さい方が好きだった……(笑)
2007/2/28



 
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