重なりあう時間 | ナノ
熊野編 玖





参拾玖話
 ハッと気づいたときにはもう






熊野路から、新熊野権現を通り一路南へ。
結局、本宮大社へは勝浦を経由して向かうことになった。


「ヒノエくん、翅羽さんとケンカした?」


道中、ヒノエの隣を歩く望美が、そっと尋ねてきた。
それに少しだけ驚きながらも、チラリと後ろを歩く浅水を見てから、再び望美を見る。


「どうして思うんだい?」
「ん〜、何ていうか雰囲気?京にいたときと今とじゃ、二人の間に流れる空気が違うみたいだから」


言葉を選びながら答える望美に、小さく苦笑を零す。
そういえば、新熊野権現で浅水と再会したとき、周囲の目がどこか困惑していたようにも思えた。
やはり誰から見てもわかりやすかっただろうか。


「そう、だね。ケンカまではいかないけれど、意見の相違、ってところかな」
「そっか。なら、早く仲直り出来ると良いね?」


むしろ、してもらわないと困る、とは口が裂けても言えなかった。
これはヒノエと浅水の都合であり、望美が口出しできることではない。
だが、浅水が現れたことで自分の知っている運命とは変わってしまった今、何が切っ掛けになるかわからない。


不安要素は出来るだけ刈り取っておきたい。

その為には、協力だって惜しまない。

二人の笑顔が見たい。


それが、望美の願いでもあった。

和やかな雰囲気のまま、一行は日置川峡へとさしかかった。


「ね〜、こんなのがまだまだ続くのかい?」


うんざりした様子の景時が周囲を見回しながら尋ねれば、そうですね、と弁慶が頷いた。
この強い日差しの中、頭からすっぽりと外套を被っている彼は、見ているこちらが暑かった。


「もう、兄上ったら。あまり情けないことを言わないで下さい」
「いやいや、オレは大丈夫だよ?うん、全然平気」


朔の言葉に手を振って慌てて否定する。
本当かしら、と言いながらもその姿を見て安堵している様子だった。


「白龍、手つなごうか」
「うんっ!神子は私が守るからね」


その少し後ろでは、ヒノエから離れた望美と白龍が手を繋いで歩いている。
こうしているとただの姉弟にしか見えない。
そういえば、自分も昔はよくヒノエや敦盛と手を繋いでいたっけ。
思わず浅水は笑みを零した。
そんな時だった。
今まで何ともなかったはずの場所に、突風が吹き荒れた。
思わず足を止め、周囲を探る。

「気が……乱れだした」

やはり五行を感じる白龍はこの異変に気づいたらしい。
小さく体を震わせて、不安そうに辺りを見回している。
他のメンバーも、何があってもいいようにと身構える。

「この風は……」

敦盛も何か感じたのだろうか。
白龍と同じように辺りを見ている。
やはり、何かいるのか。
そう思い、浅水は気を読もうと集中した。
その矢先。


── 死ヌガイイ、神子ッ!!


耳に届いた不穏な言葉に、思わず望美を見やる。
相変わらず、目に見える限り何の変化もない。
が、突然、今までにないほどの強風が望美だけを狙って吹いた。


「うわぁぁあっ!!」
「ッ、望美!」
「神子っ!」


誰もが慌てて望美の元へ駆け出すが、強風に煽られた彼女の体はすでに宙へ。
後を追おうにも、この高さでは追った方も助からないかもしれない。
浅水は小さく舌打ちをして、覚悟を決めた。


「翅羽殿っ?!」
「ちょ、待てよ!」
「無理だ!!」


制止の声も聴かずに、浅水は躊躇いもなく、宙へと自らの身を投げ出した。










一緒に落ちてみました(何)
2007/2/24



 
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