重なりあう時間 | ナノ
熊野編 捌





参拾捌話
 番人が守る門






じりじりと夏の日差しが照りつける。
新熊野権現から、本宮大社を目指して再び歩き出してからは、ただひらすらに熊野路を進んでいた。


「そろそろ一休みしようか」


景時が手で汗を拭いながら提案すれば、誰しもがそれに同意した。
いくら新熊野権現で休憩したとはいえ、この熱さの中歩き続けて、体力が削られないわけがない。
休息にふさわしい場所を求めて先へ進もうとすれば、道をふさぐように一人の男が立っていた。


「こら!そこの者等、止まらんか!」


相手の来ている服と言葉遣いから、どこぞの貴族のようであると誰しもが思い至った。


「あれ?オレたちの他にもこんな所に来る人がいるんだ〜」


景時が感心したように声を上げれば、弁慶がその言葉に少しだけ微笑んだ。


「熊野路は、本宮へ向かうためによく使われる道ですからね。僕たち意外に人がいても、不思議はないんじゃないですか?」
「ええい、のんきに話しておるでなはいっ!」


二人が世間話でもするかのように話していたのが気に入らなかったのか、ふるふると拳を震わせながら、貴族が吼えた。
そんな男を、どこかで見たことがある、と浅水は記憶の糸を辿る。
程なく、目の前にいる男が後白河院の側で良く見かけた顔だと思い至った。
ということは、この先に後白河院がいるのか。
何となく、先へ進みたくないような気がする。
それ以前に、今は目の前にいる男をなんとかしなければ、先へ進むことも出来ないのだろう。
チラリと男を見れば、既に望美たちが話を進めているようで、自分は話しが決まるまで待とうと近くの木にもたれかかった。
よく見れば、ヒノエもあの男から離れた場所で望美たちを見ている。
口出しするつもりはないようだった。

ただ一瞬、自分を見ていたような気がしたが、気のせいだったのだろうか……?


「通行止め?……でも、本宮の道って南にもありますよね」


望美の言葉に、少しだけ目を見張る。
確かに、本宮への道は熊野路だけではない。
遠回りになるが、新熊野権現から海沿いに、勝浦から本宮へ行くことも出来る。
それを知っていたことに驚いた。
京で、熊野について少し勉強してきたのだろうか。


「あぁ、新熊野権現から南に延びる海沿いの道を回れば、勝浦から本宮へ行けたと思う」


望美の言葉に応えたのは敦盛だった。
彼も熊野で育ったのだ。
それくらいは知っていて当然。
そして、敦盛が望美の言葉に応えたのは理由がある。
傍観を決め込んでしまった浅水とヒノエは、直接問われるまで何も言わないと知っているから。

教えるのは簡単。

だが、そう簡単に教えてしまったのでは、意味がない。


「まぁ、海でもいいじゃねぇか。つーか、そっちを回ろうぜ」


本宮へのもう一つの道を聞いて、あっさりとそちらを行くことに決めたのは将臣だった。
だが、その言葉を皮切りに、みんなは次々と迂回ルートを行くことに賛同する。
いつまでもここで押し問答を繰り返すより、遠回りになるが確実な道を進んだ方が早いと悟ったからか。
ほぼ、満場一致で熊野路より離れ、新熊野権現から南を回ることになった。
浅水とヒノエは話がまとまってから再び輪の中に入る。
それを不思議に思う人は誰一人としていなかった。










さくさく進めてみます(爆)
2007/2/22



 
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