重なりあう時間 | ナノ
熊野編 漆





参拾漆話
 絡まって切なくてほどけない






ヒノエが戻ってくるしばらくの間、新熊野権現で休息を取ることになった。
それまでは、話をしたり風景を堪能したりと、思い思いに体を休めていた。


「そういえば、将臣が望美に同行していたとは思わなかったな」


敦盛と再会を喜んだ後、浅水は思い出したように将臣を見た。
まるで台風一過のように神泉苑で彼と別れた後、自分も京を離れた。
だから、ここで再会するとは思っても見なかった。


「それを言うなら、こっちだってそうだぜ?てっきりこいつらと一緒にいるもんだとばかり思ってたからな」
「あぁ、そうか。将臣は後から来たから知らなかったんだっけ。私は仕事で京にいたからね。それが終わったから熊野へ帰ったんだよ」
「なるほどな」


将臣とたわいもない話をしながら、こんな風に話すのは懐かしいと思った。
京にいた頃は、ろくに話が出来なかった。
だから、将臣がここへ来てから、どのような生活を送っていたかは知らない。
それでも、少し話せば大体の様子はわかる。
彼は、この世界へ来ても、あちらの世界にいたときと変わりがないように思えた。
それが嬉しくもあり、悲しくもあった。


「あれ、まだ先に進んでなかったのか?てっきり先に行ったと思ったんだけど」


そんな声が聞こえて声の主を見れば、いつの間にやらヒノエが戻ってきていた。


「も〜、ヒノエくんを待ってたんだよ?」
「それは悪かったね。なら、休んでいた分先を急ごうか」
「そうだね。早く熊野別当に会いたいし」


頬を膨らませて、望美が軽くヒノエに拳を上げる。
それに笑顔で返し、おどけたように望美の手を引く。
途端、望美のほうも機嫌をよくさせた。
自分の時とは真逆の態度に、少しだけ、胸が痛んだ。
着物の胸元を強く掴み、二人を見ないように逸らされる視線。
そんな浅水を、少し離れたところから弁慶と敦盛が見つめていた。


そして、望美と一緒にいるヒノエも。


だが、ヒノエの方はチラリと見ただけで、直ぐさま望美と会話を始めてしまう。
まるで、何事もなかったかのように。
それに抗議しようとした敦盛を、やんわりと弁慶が遮る。


「だが、あれでは……っ!」
「ヒノエも、何か思うことがあるのかもしれません。少し、時間をあげませんか」
「……わかった。だが、いくら何でもあれでは浅水殿が可哀想だ……」


時間が全て解決してくれる訳ではない。
逆に、こじらせてしまう可能性だってある。
そんな簡単なことを、弁慶が知らないはずがない。
だが、痛いほどに浅水を見つめる弁慶を見て、敦盛は思わず口を閉ざした。


「……翅羽殿」


悔しそうに唇をかんだ後、やはり敦盛は堪えきれずに浅水の元へと行った。
小さく溜息を吐くと、弁慶も敦盛と同様に浅水の側へと足を進めた。
それから、一行は再び歩き始めた。
熊野別当に会うために。



そう、目指すは本宮大社。



熊野別当との、面会。










思っていたより短くなってしまった……(汗)
2007/2/20



 
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