重なりあう時間 | ナノ
熊野編 陸





参拾陸話
 聞かせてくれれば






浅水とヒノエの間に漂う、穏やかとは言えない雰囲気に、その場にいた誰もが困惑した。
思えば、京いたときはこんなことはなかったような気がする。
だとしたら、一体いつの間に……?
そう考えたとき、望美の脳内に京での一時が思い出された。
浅水は熊野へ戻るときに、ヒノエを探していなかっただろうか?


(京でヒノエくんと何かあったのかな?)


単純に、そう思った。
いや、それ以外に考えられなかったのだ。


「あの……」
「翅羽殿、久し振りだ」


望美が二人の間に入ろうと口を開いた瞬間。
それを遮るように声が発せられた。
望美が声の主を捜せば、三草山の戦の折に出会い、平家であるにもかかわらず八葉だった平敦盛、その人だった。
久し振り、と言うからには彼も知り合いなのだろうか?


「あれ、敦盛。久し振りじゃん。あ……望美と一緒にいるって事は、敦盛が天の玄武なんだ」
「あぁ、私のような者が八葉であるのは心苦しいが、神子の役に立てればと思って」
「相変わらず謙虚というか、何というか……」


浅水が敦盛と話し始めた途端、先程までの雰囲気はかき消えた。
それにホッと安堵の溜息を吐いた者が何人いたことか。


「いいんですか?」


弁慶がそっとヒノエに近付いて尋ねれば、冷たい視線が返される。


「何が」
「彼女のことですよ」


浅水を見ずに、ヒノエだけを見つめる。
その視線は、いつものからかうような物ではなく、血縁としての心配そうな目。
この状況を作ったのは自分だとしても、このまま続かれてはこれから先が思いやられる。
早々に和解しろ、と弁慶の目は雄弁に訴えていた。


「オレには関係ないだろ」


苛つきを露わにしながら言葉を吐き出すと、ヒノエはそのままどこかへと行ってしまった。
後ろ姿を見送りながら、付いて出るのは溜息にも似た苦笑ばかり。


「あれ?弁慶さん、ヒノエくんどこかにいっちゃったんですか?」
「望美さん。ヒノエは少し頭を冷やしてくるそうです。そのうち合流するでしょう」


キョロキョロとヒノエの姿を探す望美に、嘘八百を並べる。
それをいとも簡単に納得すると、望美は浅水と敦盛を見た。


「翅羽さんって、敦盛さんとも知り合いなんですね」
「あれも幼馴染みのような物でしょうね。昔はヒノエと三人でよく走り回ってましたよ」


過去に思いを馳せながら説明すれば、羨ましそうに二人を見つめる望美の姿があった。
その瞳はどこかもの悲しそうだった。


「望美さん?」
「あっ、すいません!ちょっと、幼馴染みのことを思い出しちゃって」


そう言えば、彼女は翅羽と同じ名の幼馴染みを捜していたのだった。
本人には確認していないが、弁慶は浅水が望美の捜し人なのではないかと予測を立てていた。
以前、六波羅で彼女と会ったときの浅水の態度。
それは、今までに見たことのないくらいの動揺。
まるで、信じられない人を見たかのような目で望美を見ていた。
そして、下鴨神社で将臣と合流したとき。
あの時も、再会を喜び合う望美たち三人を、懐かしい目で見ていたのではないか、と思う。


「ねぇ、望美さん」


情報は多いに越したことはない。
どうせヒノエが戻ってくるまでしばしかかる。
それならば、少しでも多く自分の手持ちの札を増やしておきたい。



「あなたが探している幼馴染みのことを、少し詳しく教えてくれませんか?」



やんわりと微笑んでみせれば、いいですよ、と満面の笑みで返事が返ってきた。










やっと敦盛登場!
2007/2/18



 
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