重なりあう時間 | ナノ
熊野捏造編 弐





弐話
 平行世界に思いを馳せても







浅水が再び眠りから目を覚ますと、既に日は高い位置に来ていた。
起き上がり、真っ先に思ったのは、あのとき自分と一緒にいた二人の従兄弟と幼馴染み。


そう、自分がここにいる理由――。










昼休み。
昼食を一緒に取りながらクリスマスの話をしよう、と持ちかけてきたのは、幼馴染みの春日望美だった。
日直の仕事が残っているからと、望美と従兄弟の有川将臣を先に食堂に行かせ、自分も少し遅れて向かう。
小走りで食堂へ向かえば、渡り廊下に見える見知った姿。
それよりも少し離れた場所には、一つ下の従兄弟、譲の姿も見える。
何故こんな場所に止まっているのか。
それが気になった浅水は残りの距離を急いだ。


「望美、将臣、譲。食堂行ったんじゃなかったの?」
「それが……」


言葉を濁した譲に首を傾げ、同じように将臣に理由を尋ねれば、示されたのは望美とその先にいる少年。
不思議な格好をした少年は、雨に濡れることも構わずに望美を見つめていた。


「何、あの子迷子?」


口に出して呟けば、さぁ?と隣から曖昧な返事が返ってくる。
着ている服装もさることながら、髪の色や瞳の色も日本人のそれとは明らかに違う。
果たして日本語が通じるのかが疑問だが、望美に加勢しようかと足を踏み出そうとした瞬間。


「あなたが、私の、神子」
「え?」


少年がにっこりと呟く。
次の瞬間。辺りを光が包み込み、それに巻き込まれるように四人の姿がその場から、消えた。


「望美っ!」
「望美っ」
「先輩っ」
「将臣くん、譲くん、浅水ちゃん!」


気付けば四人は激流の中にいた。
望美と譲はかろうじて近くにいたが、将臣と浅水は二人からどんどんと離されていく。


「浅水!」
「将臣っ」


お互いに手を伸ばしたが、その手は空を切るばかり。
しまいには、バラバラに激流の中に飲まれてしまった。





流されながら、浅水が思い出したのは幼い頃の記憶だった。
そう、すっかり忘れていたはずの祖母の記憶。


祖母自身の生い立ち。


何故、自分が祖母に引き取られたのか。


名前の意味。そして、役割。


幼い自分に、まるで大きな物語の一つのように、いろいろな話を聞かせてくれた。
今思えば、それは別々の話ではなく、全てが一つに繋がっていたのだ。
まるで走馬灯のように駆け巡る祖母の記憶。



こんな大切なこと、何故忘れていたのだろう?





「私の予想が合ってるなら、ここは日本であって日本じゃない。……婆様、貴方は私がこうなることを知っていたの?」


ポツリ、と呟いて固く目を閉じる。
再び開かれた瞳には、何か決意のようなものが感じ取れた。
浅水は完全に布団から出ると、襖を開けて部屋から出た。
部屋は庭に面していたらしく、様々な木々や植物が目に入る。
自分が世話になった場所は、随分と高貴な身分の人だったらしい。


「ねぇ、アンタが昨日親父に保護された姫君かい?」
「誰?」


不意に聞こえてきた声に、周囲を見回す。
だが、どこにも姿は見えない。
もう一度声を出そうかと思ったとき、庭にある一本の木から人が降ってきた。





「初めまして、姫君」





恭しく礼をしてから微笑んだのは、その少年。





湛快と同じ、目の覚めるような赤だった。










現れたのはもちろん彼。
2006/12/06



 
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