重なりあう時間 | ナノ
熊野編 伍





参拾伍話
 解けない結び目






望美たちと急いで合流しようと、浅水は勝浦から一路、龍神温泉を目指していた。
彼女らの目的が熊野別当であるから、本宮で待っていれば必ず会える。
だが、それよりも早く会いたかった。
だから、浅水はただひたすらに、目的地を目指していた。
移動しているのは自分だけではなく、望美たちも同じ。
もしかしたら、思っている以上に近い場所で再会できるかもしれない。


望美と――ヒノエに。


そんな思いを胸に、浅水は道なき道を駆けていた。



新熊野権現へさしかかった頃。
そのまま先を急ごうとした浅水だが、近くに感じる見知った気に足を止めた。
意識を集中させて気を感じれば、それは三ヶ月前に一緒にいた望美たちのそれだった。
その他に、白龍の人ならざる神気を感じることも出来た。
これならば再会できるのも近い、浅水はそう悟ると、手頃な木に登り一行がその場に来るのを待つことにした。


「悪いけど、アイツが今どこにいるかはオレにもわからないな」
「え……そうなの?ってことは、やっぱり自分で探せってことなのかなぁ」


声が聞こえる。
聞いたことのある声。
少しだけ枝から身を乗り出してみれば、集団の一行が姿を現したところだった。
それをざっと見れば、見たことのない姿も見えるようだ。
さて、どのタイミングで姿を現そうか。
そう考えた浅水は、次の瞬間視線を感じてその主を探った。
程なく視線を送ってくる人物を特定することが出来たが、余り嬉しい人物ではなかった。
なぜなら、視線を感じたのは自分が待っていた一行の中から。
既に自分のことには気付いているらしい。


「その必要はないと思いますよ」


わざわざ歩くのを止めて、弁慶が望美を見る。
それに合わせたかのように、一行の足が止まる。


「弁慶さん、どういう事なんですか?」
「ですから、あなたが探さなくても、向こうから出迎えてくれるということですよ」


問いかけた望美に返事を返してから、ねえ?と木にいる自分へ視線を送ってくる。
そんなことをされては、自分の居場所を教えているような物だ。
案の定、視線は浅水のいる木に集まった。これでは姿を見せない訳にはいかないだろう。


「相変わらず、見付けるのが早くて嫌になるね」


嘆息混じりに言葉を吐き出して、木の枝から飛び降りる。


「翅羽さん!」


浅水の姿を見るなり飛びついてきた望美に、抱き返してぽんぽんと軽く背中を叩く。


「久し振り、望美。そして、ようこそ熊野へ」


そう言ってから周囲の面々を確認して、その朱をみつけるときゅっと唇をかんだ。
一瞬の躊躇いの後、紡がれる言葉。


「お帰り、ヒノエ」
「……あぁ」


まるで機械のように決められた言葉に、返ってくる返事も短い物だった。
――未だ、お互い京での一件を引きずっている。

わかってはいたが、感情を感じさせないそれに、少々胸が痛む。
久々の再会は、こうして幕を落とした。










ここから再びゲーム沿いに進みます。
2007/2/16



 
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