重なりあう時間 | ナノ
熊野編 肆





参拾肆話
 目処もないのに始められない






熊野の協力を得ようと熊野へやってきた望美たち。
そこには龍神温泉で再会した将臣の他に、新たに八葉として加わった人物の姿もあった。
一行は、熊野別当に会うために本宮大社を目指していた。


「ねえ、そういえば翅羽さんが熊野で待ってるって言ってたけど、どこにいるのかな?」
「そういえば、肝心なことは聞いてなかったわね」


列の最後尾を歩いていた望美が不意に疑問を登らせれば、近くにいた朔がそれに同意した。
待っている、と彼の人は言っていたが、どこで待っているのかはわからない。
もしや、自分たちに探せというのだろうか。


「そうだ、ヒノエくんなら知ってるかな?ヒノエくん、翅羽さんってどこにいるか知ってる?」


前を歩くヒノエの背に向かい声を掛けるが、何の反応もない。
それを不思議に思い、望美は歩調を早めた。
ヒノエの横へ並ぶと覗き込むように彼を見る。


「ヒノエくん?」


再度名を呼べば、ようやく気付いたかのようにぱちぱちと瞬きを繰り返した。
望美の方を向いてから、何故呼ばれたのかわからないというような表情をする。


「望美?一体どうかしたかい?」
「それは私の台詞だよ。さっきから呼んでるのに、全然気付いてくれないんだから」


むう、と頬を膨らませる望美に小さく笑って謝れば、仕方ないなぁ、と返される。
自分を呼んでいた理由を問えば、ぱっと表情が明るくなった。
だが、望美の次の言葉に思わず固まってしまったのも事実。


「ヒノエくん、翅羽さんがどこにいるか知ってる?」


多分、そう深い意味ではない。
京で言われた言葉から出ただけのこと。
同じ熊野出身の自分に、その問いが回ってきただけだと。
確かに、浅水がどこにいるかを知っているのは自分だけだろう。
だが、あれから時間がたっているというのに、自分の中で気持ちの整理がついていない。

後から思い返せば、あれは何らかの理由があったのだろうと想像できた。
あの弁慶のことだ。
自分が近くにいると知って、からかっていただけかもしれない。


「ヒノエくん?」


自分の言葉に考え込んでしまったヒノエに、望美が首を傾げる。
それに気付き、軽く首を振って何でもないと言えば、ホッとしたような笑みがあった。


「悪いけど、アイツが今どこにいるかはオレにもわからないな」
「え……そうなの?ってことは、やっぱり自分で探せってことなのかなぁ」


小さく落胆した望美に内心で謝罪の言葉を告げておく。
浅水の居場所を教えるということは、その肩に背負っている物まで教えてしまうことになりかねない。
自分が別当であることを隠している今、足がつくようなことはしたくなかった。


「その必要はないと思いますよ」


ふいに、前を歩いていたはずの弁慶が足を止めて望美を見た。
意味がわからず首を傾げるだけの望美に、弁慶は明確な言葉を与えない。
望美まで足を止めてしまえば、自然とその他の足もその場に止まる。
気付けば、新熊野権現までやってきていた。


「弁慶さん、どういう事なんですか?」
「ですから、あなたが探さなくても、向こうから出迎えてくれるということですよ」


ねえ?と言いながら弁慶が視線を向けた先は、一本の木。
何事かと、その木に視線が集まる。


「相変わらず、見付けるのが早くて嫌になるね」


嘆息混じりに聞こえたその声は、以前耳にしていたそれと全く同じだった。










長くなったので切ります
2007/2/14



 
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