重なりあう時間 | ナノ
閑話 弐





閑話 弐
 違和はほんの少し






翅羽さんを見送るために玄関に出た私たち。
でも、その表情はどこか苛立っているように見えた。
だから、どうしたのか聞いてみたんだけど、ヒノエくんに話したいことがあるけど見付からないから、と返された。
そういえば、今朝からヒノエくんの姿を見てない。
いつもなら「おはよう、姫君」って挨拶に来るのに……どうかしたのかな?
でも、驚いたのはそんなことじゃない。
だって、翅羽さんがまさかあんなことを言うなんて。


「また会えます?」
「そうだね、また会えるよ」


せっかく知り合えたのに、ここでお別れなんて寂しいから。
でも、戦に参加していたら、いつ何があってもおかしくない。
だから、翅羽さんもそう答えたんだと、そう思ったのに。


「……熊野」
「え?」


呟かれた言葉に思わず聞き返した。
私の聞き間違い?
ううん、そんなことないよね。


「夏に熊野で待ってるから」


どうして。
どうしてこの人が知っているんだろう?
私たちが、夏に熊野へ行くことを。
だって、頼朝さんからはまだ何も言われていない。


知っているはず、ないのに。


翅羽さんの姿が見えなくなってから、私は先生と話をするために部屋へ向かった。


「先生は、今まで辿った運命の中で翅羽さんに会ったことがありますか?」


開口一番にその言葉。
先生もちょっと驚いてたみたいだけど、すぐに答えてくれた。

先生の答えも、ノー。

翅羽さんとは会ったことがないみたいだ。
どうして私たちが熊野へ行くことを知ってるんだろう?
そこで思い出したのは、星の一族のこと。
確か、星の一族って先見の力があるとか言ってたよね。
譲君の従兄弟なんだから、浅水ちゃんに先見の力があってもおかしくはないはず。

あれ?

そういえば、神泉苑で先生に会ったとき、私何か言われなかったっけ?


「そうだ!」


ぱん、と手を叩いて慌てて先生の所から譲君のいる場所へと急いだ。

そうだ。

どうしてもっと早く気付かなかったんだろう。
そう、私と九郎さんを押さえようとするときに、翅羽さんは私にストップって言ったんだ。
ストップなんて言葉、この時代にあるはずがない。
もしかしたら、もしかするかもしれない。


「譲君っ!」
「先輩?そんなに急いで、どうしたんですか?」
「翅羽さんが、神泉苑でストップって言ったんだよ!」


炊事場にいた譲君を見付けると、私は急き立てるように言った。
最初は何のことかわからない、って様子だった譲君も、事情を理解してくれると納得したように頷いてくれた。


「あぁ、そう言えば兄さんが色々言葉を教えていたみたいですから。その時に覚えたんじゃないですか?」
「え?」


譲君の言葉に思わず聞き返した。
将臣くんってば、いつ教えてたの?
私、そんなこと聞いてないよ?


「それに、翅羽さんが浅水姉さんなわけないじゃないですか。第一、あの人は男性でしょう?」
「そう、かなぁ?」
「そうですよ」


諭されるように言われて、私は渋々納得するしかなかった。
確かに、翅羽さんは男の人、だよね。
そう言われてみれば、浅水ちゃんとも全然違う。


「将臣くんが教えたのかぁ」


せっかく見付けたと思ったのに……。
やっぱり、翅羽さんと浅水ちゃんを同一人物って考えるのは、間違ってるのかな?





浅水ちゃん、今頃どうしてるのかな。










望美は中々鋭いと思う
2007/2/6



 
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