重なりあう時間 | ナノ
京編 弐拾弐





弐拾漆話
 呼び止める声






このままでは日が沈んでしまうから、と朔に言われ、望美と九郎に説明する前に梶原邸へと戻ってきた。
譲が煎れてくれたお茶を飲みながら、簡単に説明をする。
とはいえ説明することと言っても、特にはない。
神泉苑での会話はリズヴァーンは八葉なのかどうか、見極めたかっただけである。
だが、それを話してしまうと、ずるずると芋蔓方式で聞かれる恐れがあった。
だから、浅水は危害を加えるつもりがあるかないかを確認したかっただけ、と告げた。


「だからと言って、先生にあんなことを言う奴があるか!」
「九郎、止めなさい」


それを聞いた九郎が再び浅水に食って掛かりそうになった。
もちろん、それを止めたのはリズヴァーン。


「普通なら翅羽の態度は至極当然。鬼の一族はそういう物だ」


静かに言われれば九郎とてそれ以上何も言えなかった。
あの九郎を瞬時にして黙らせるとはお見事。
内心拍手を送りながら望美の方を見やる。
望美は九郎とは違い、浅水が言っただけで納得してくれたようだった。
それに安堵しながら、今なら丁度良いかと思う。
都合良くここには全員揃っている。
告げるならば、今。


「話がまとまったところで悪いんだけど、私がみんなと同行するのは今日までなんだ」
「翅羽?」


突然切り出した浅水に、ヒノエが驚いたように声を上げた。
それも当然。
いつ帰れ、と日付の指定は受けなかったから、今決めたのだ。
第一、これ以上みんなと一緒にいたら、自分が熊野に帰りがたくなる。
だから、出来るだけ早いうちに帰らなければ。


「そうなのか?」
「今日までとは、また随分と急ですね」
「せっかく仲良くなれそうだったのに……」
「でも、仕事が終わったんなら仕方ないよね」
「残念だわ」


口々にそう呟く面々に、申し訳ないと肩を竦めながら言った。
ヒノエからの視線が痛いが、後から言い訳すればいい、とあえて気付かない振りをする。





夕餉を梶原邸で取り、ヒノエと共に六波羅へ戻ろうとしたところで、朔が声を掛けてきた。


「ねぇ、明日にはここを発ってしまうのでしょう?だった今日くらい家に泊まっていってはどうかしら?」


と。
それに賛成したのは望美を始めとした八葉たち。
九郎もその提案に異を唱えなかった。
そのことにちょっとだけ目を見張ったが、ここで何か言ったらまた口論になりそうなので、自分の胸にだけ留めておいた。
逆に、微妙な顔をしたのは浅水とヒノエである。
ヒノエからすれば、これから一晩掛けてどういうことかじっくり説明してもらおう、という腹づもりだったのだろう。
そして、浅水は勘弁してくれ、と片手で顔を覆って小さく呟いた。

多分、浅水の恰好を見て朔は自分を男だと勘違いしているに違いない。
もちろん、自分が女であるとは言ってないし、その逆も然り。
となると、必然的に床の準備は八葉たちと一緒なのだろう。
今が冬でなくて良かったと思うべきか。
まだ外は寒いが、一晩くらいなら平気かもしれない。


「ね、翅羽殿。どうかしら?」


考え込んでしまった浅水に再び問うてくる朔に、断っては申し訳ないかと思い、わかったと返した。
浅水の答えを予想していたヒノエは一つ、溜息を吐いた。










梶原邸にお泊まり決定!(笑)
2007/1/29



 
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