重なりあう時間 | ナノ
熊野捏造編 壱
壱話
異常だ、絶対おかしい(ここ、どこ……?)
ぼんやりと見上げた天井は、普段見ている自分の部屋のソレではなくて。
純和風な感じがした。
そして、自分が布団に寝かされているのだとわかると、首を動かして部屋を眺める。
広い和室の中央に敷かれている、自分が寝ている布団以外これといって何も見あたらない。
しっかりと閉められている襖からは、僅かな光が漏れている。
(雨、止んだんだ)
そう思ったところで、あれ?と首を捻る。
自分は学校にいたはずだ。
となると、今この場にいる状況はどういう事だろう?
「確か、学校の渡り廊下で望美たちと合流して……」
記憶を手繰り寄せようと呟いた自分の声に違和感を感じる。
自分の声はこんなに高かっただろうか?
これではまるで、子供のような声ではないか。
布団から手を出し、喉に触れようとして、固まった。
この小さい手は、何?
ひくり、と頬が引きつった。
恐る恐る起きあがれば、さらりと頬を流れていく自分の髪。
視界に入った髪を一房掴み、くい、と引っ張ってみる。
「痛い」
間違いなく自分の髪。
幼い頃は伸ばしていた時もあった。
でも、今の自分の髪は肩くらいまでの長さしかなかったはず。
それに、制服を着ていたのに、いつの間にか着物を着ている。
「何なのよ、コレーーーッ!!」
わけのわからない出来事を前に、とりあえずできたのは叫んでみることだった。
「……で、倒れてたお嬢ちゃんをココまで連れてきた、と」
「……はぁ」
とりあえず、自分がなぜここに寝かされていたのかを説明され、曖昧に頷く。
赤い髪が印象的な男は、名を藤原湛快と言った。
どこかで聞いたような名前、と思いながらどうしてもその名を思い出すことはできなかった。
「寝起きでそんな話をされても、実感が湧かないかもしれませんね。それよりお嬢さん。あなたの名前をお聞きしてもよろしいですか?」
湛快よりも随分若い男――武蔵坊弁慶――が柔らかく問いかけた。
流石に武蔵坊弁慶の名前を聞いてしまうと、無反応ではいられない。
またもや叫び出さなかった自分に拍手、と内心で称賛の拍手を送る。
弁慶から名を問われ、一瞬の逡巡。
確か、この時代じゃそれなりの身分がないと、名字を持たなかったはず。
素直に七宮浅水と名乗るか、それとも沈黙を守るか。
「それとも、名乗れない理由でもある、か?」
浅水の沈黙を名乗れないせいだと解釈した湛快が、顎に手を添えた。
その姿勢は何か考えているように見える。
それに多少警戒するが、次の言葉に思わず呆気に取られた。
「仕方ない。名がないのも不便だからな。自分から名乗れるようになるまで、翅羽とでも呼ばせて貰おうか」
「翅羽ですか。彼女にぴったりですね」
目の前で勝手に進んでいく話について行けず、目を白黒させる。
普通は理由があったとて、警戒するのではないのだろうか?
「まだ疲れているようですね。もう少し寝た方がいい」
「そうだな、こんなに小さいんだ。さすがのお嬢ちゃんも疲れたろう」
「あっ、あの!」
小さい、と言う言葉に浅水は思わず口を挟んだ。
「私、今何歳に見えますか?」
この問いに二人からそろって返ってきた答えで、浅水は再度絶叫することになった。
浅水が辿り着いたのは10年前の熊野。
2006/12/05