重なりあう時間 | ナノ
京編 弐拾壱





弐拾陸話
 くっきりと、どこまでも鮮やかに残る






「……鬼、か」



ポツリと呟いた浅水を、望美と九郎の視線が捉えた。
望美はどうかわからないが、九郎ならその言葉の意味がわかるだろう。


「お前、先生に対して何を言うんだ!」


そう思った自分は馬鹿だろうかと、返ってきた九郎の言葉に頭痛を覚えた。
一度でも自分の懐に入れた者には甘いのだろうか。
それとも、そんなことを考える自分の方がおかしいのか。


「何って、見たままだろう?金髪碧眼、これを鬼と言わずして何と言う?」


人を指差すのは失礼とわかっているが、仕方がないと諦める。
すると、望美も何か思うところがあったのか、ようやく我に返った。


「なっ!お前ッ」
「翅羽さんっ!」


九郎と望美の声が重なる。
チラリと相手の様子を眺めるが、表情は全く動かない。


「それとも、二人は鬼が何をしたか知らないのかな?」
「先生はそのようなことはしない!」
「そうだよ、訂正してっ!」


浅水に詰め寄ろうとする二人の間に、ふわりと金髪が風になびいた。
いつの間に、と思ったが、鬼には特殊な能力があったのだと思い至る。


「九郎、神子、落ち着きなさい」
「でもっ!」
「ですがっ!」


二人をその場に押しとどめてから、浅水の方へ振り返る。
少し離れた場所で見たときも綺麗だと思ったが、近くで見てそれが間違いではないことを知る。


「いかにも、私は天狗や鬼と呼ばれている」


真っ直ぐに見つめてくる瞳は真摯な物だ。
そして、自分が何であるかもちゃんと理解している。


「だろうね、その姿じゃそう思わない者はいない」
「だが、私は神子に危害を加えるつもりもない」


神子。


望美のことをそう言うことは、やはり自分が何であるかを知っている。
対立していたはずの鬼が、この時空では神子の八葉となるか。
全く、何が起きるかわからない。


「うん、それも知ってる。神子の八葉であるあなたが、神子を傷つけるはずがないからね」


ふわり、と笑みを浮かべながら告げれば、驚いたように瞳が揺れた。


「なぜ、それを……」
「さぁ、なぜだろうね?」


含みを持たせて言えば、探るような視線が降ってくる。
神子と八葉しか見えないはずの宝珠。
当然のことながら、浅水にも見えてはいない。
だが、気の巡りで誰が八葉かくらいはわかるのだ。


「翅羽!いい加減に先生から離れろッ」
「そうですよっ」


修羅のような形相で二人の間に割り込んでくる姿に、浅水は疲れを覚えた。
九郎はわかっているからともかくとして、望美まで。
頭に血が上ると目の前のことしか見えないのは、二人とも同じなのか。


「九郎、止めなさい」
「望美もストップ」


九郎には鬼が。
望美には浅水がついて、とりあえず二人を落ち着かせることにした。
少しして、二人が落ち着いた頃にその場に留めてから、再び顔を見合わせる。


「私は翅羽」
「リズヴァーンだ」


短く名乗り、お互いに握手を交わす。
そんな二人の姿を見ていた望美と九郎は、目を白黒させていた。
とりあえず、この二人に説明することから始めないと。
そう思ったが、リズヴァーンに全てを任せても良いかと思っている自分が、頭のどこかにいた。










残る八葉はあっつんだけ
2007/1/27



 
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -