重なりあう時間 | ナノ
京編 弐拾





弐拾伍話
 黙して語らず






先日のように縁側に座り、何をするでもなく庭を眺める。
そういえば譲が植物を植えていたな、と思いながら自分の手元に視線を移す。
そこには件の舞剣。
神の力の媒体を、さすがに部屋に放置するのもどうかと思ったのだ。


「持ち歩くのに邪魔だな」


はぁ、と溜息を吐く。
今まで帯刀をしたことがない浅水は、移動に長物を持ったことはない。
慣れるまでは存在を忘れてしまいそうだ。
いっそのこと、熊野に戻ったら鍛冶職に頼んで短く加工してもらおうか。
そう思った頃、玄関の方が騒がしくなった。


「ただいま〜」


相変わらず元気の良い望美の声に、思わず笑んだ。
浅水は望美たちを出迎えるため、舞剣を腰に差して玄関へ向かう。


「おかえり、望美」
「あ、翅羽さん。今日は姿が見えないから心配したんですよ〜」
「今日は仕事があってね」


曖昧に誤魔化せば、オレが言った通りだろう?とヒノエが望美に言った。
座敷へ移動して、望美から神泉苑でのことや嵐山であったことを聞く。


「ねぇ、翅羽さん。それって舞剣?」


座る浅水の脇に置かれた舞剣に目を留めた望美が、首を傾げながら問う。


「あれ?でも、それってどこかで見たような……」
「今日熊野の舞姫が使った物だよ。あの騒ぎで置きっ放しだったらしいから、私が預かったんだ」
「そうなんですか」


さらりと準備していた答えを口にすれば、すんなりと納得してくれたようだった。
一通り話し終わったところで、望美は思い出したように浅水を見た。


「前に話した幼馴染みのことがわかったんです!」
「でも、どこにいるかはわかりませんが」
「星の一族は龍神の神子をサポートする役目だっていうから、必ず会えるよ」


ぐっと握り拳を作って力説する望美に、思わず吹き出した。
自分は、望美のこういうところが好きなんだと思う。


「会えるといいね」
「はいっ!そのときは翅羽さんにも紹介しますね」


さすがに自分に自分は紹介できないと思いながら、それでも頷いておいた。
そんなとき、神泉苑の後片付けを終えた九郎がやってきた。
少し話をした後、もしかしたら二人の師匠に会えるかもしれないと、再び神泉苑へと足を向けた。










「さて、どこにいるもんか」


急用が出来たと帰ってしまった将臣を見送った後、辺りを見回す。
だが、それらしき人影は見当たらない。
そんなとき、望美と九郎が突然走り出した。
目当ての人でもいたのかと、浅水も二人が向かった場所へ足を向けた。
程なく、二人の姿と、長身の人影が目に入る。
あれがそうなのかと思いながら、あれ?と首を傾げる。
この気配。
自分の予感が確かなら、あの人も八葉だ。
しかし、外見を見れば金髪碧眼。
この世界でそのような外見を持つとしたら、考えられるのは一つ。


かつて、鬼と呼ばれる一族が京を襲い、それを龍神の神子が倒したと言われている。


それゆえ、京に住む人々は未だに鬼に嫌悪感を感じている。
望美と九郎を見る限り、二人はそんなことどうでも良いのだろう。
でなければ、剣の師匠になることなど有り得ない。
自分も人種差別をするつもりはない。
現代には金髪碧眼の人間だって沢山いる。
だがこの世界にはそう言う概念がない。
八葉の一人に対して、初対面で突然こんなことを言うのは失礼になるだろう。

だが──。



「……鬼、か」




呟いた浅水の声に反応して、望美と九郎が振り返った。










名前も出てないけどリズ先生登場(爆)
2007/1/25



 
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -