重なりあう時間 | ナノ
京編 拾玖





弐拾肆話
 適切に慎重に選ばれた言葉






目が覚めると、そこは見知らぬ天井だった。
前にも同じようなことがあったと思いながら、そっと身を起こす。
自分は布団に寝ていたようだ。


「あぁ、目が覚めたんですね」


襖が開くと同時に弁慶の姿が現れた。
こんなところまで昔と同じで、思わず笑みが零れる。


「どこか体の調子がおかしなところはありませんか?」
「ないわ、大丈夫」
「いきなり倒れるから心配しましたよ」


浅水の脇へ腰を落とした弁慶に、自分の体を見回してから返事を返す。
神泉苑で倒れてからの記憶がない。
布団で寝ていたことから、誰かがここまで運んでくれたは想像がついた。


「そのことについては謝るわ。で、私を運んでくれたのは誰かしら?」
「本当はヒノエが運ぶと言って聞かなかったんですが、僕が運ばせてもらいました。彼は望美さん達と嵐山に行ってますよ」
「貸し一つ、ね。ありがとう。それより、ここはどこ?」


聞かなければ良かったと少々思ったが、面倒を掛けてしまったことに変わりはない。
礼を言ってから次の質問をすれば、ここが梶原邸だと教えられた。
言われてみれば、見たことがあるような部屋かもしれない。
部屋の中を見回していれば、弁慶は浅水──翅羽──の着物を差し出してきた。


「これは?」
「貴方は神泉苑にいたときのままですから。ここにいるときに、流石にその恰好では拙いでしょう?」


自分の着物を指差されて見下ろせば、成る程神泉苑で舞を舞った着物のままだ。
このままの恰好でいるときに望美たちが帰ってきたら、神泉苑で舞ったのが自分だとわかってしまう。
素直に礼を言って弁慶を部屋から追い出せば、浅水は着替え始めることにした。


「それより、急に倒れた理由を聞いても良いですか?」
「ん〜、準備もせずに神の力を借りたから、かな」
「神の……なら、雨を降らせたのはその神の力ですか?」
「そうなるかしらね」


しばらくして衣擦れの音がしなくなったのを確認すると、弁慶が再び部屋に入ってくる。
着物をたたみながら、そういえば、と浅水は手を止めて弁慶を見た。


「私の舞剣って、どこにある?」


そんなことを聞かれると思わなかったのか、一瞬だけ瞠目する。
まぁ、今まで舞うとき以外に口にしたことはないから、当然と言えば当然か。


「それを聞いてどうするんですか?」
「私の物をどうしようが私の勝手だわ。違う?」


拒絶するように答えてから、そうじゃないと言い換える。


「ちゃんと理由は話すわ。でも、その為には舞剣が必要なの」


理由を話すと聞いたからか、弁慶は少し待つように告げると部屋から出て行った。
再び部屋へ戻ってきたときには、神泉苑で浅水が使用した舞剣を携えていた。
礼を言ってから受け取れば、しみじみと舞剣を眺める。
自分でも未だに信じられないが、この舞剣を通して先程の神々が力を貸してくれるらしい。


「持ってきたんですから、理由を話してくれますよね?」


舞剣を眺めている浅水に問いかければ、弁慶に視線を移して小さく頷いた。


「どこから話そうかしらね……」


そう前置きしてから、先程四神と交わした会話の要点を噛み砕いて話し始めた。






そう、弁慶に話しても差し障りのないことだけを。










役得だったのは弁慶。どうやって運ばれたのかは想像にお任せします(笑)
2007/1/23



 
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