重なりあう時間 | ナノ
京編 拾捌





弐拾参話
 たとえこの目には見えずとも






眼前に広がるのは、白一色。
その中に、浅水一人がいた。


「何、ここ……私は確かに神泉苑にいたはずなのに」


着物の胸元を掴み、周囲を見回す。
白しかないこの空間では、まるで自分が異物のように感じられる。

気持ち悪い。

息苦しさに、じっとりと嫌な汗が浮かぶ。
早くこの場から逃げたいのに、逃げ道など見当たらない。
浅水は固く目を閉じ、その場に蹲った。
視界が遮断されたことによって、幾分楽になったような気がする。
だが、いつまでもこうしていられるわけではない。


「一体、何だって言うのよ」


胸のつかえを吐き出すように言えば、不思議と気も楽になった。
だが、一向に変わらないこの状況。
まずもって、自分がこの空間にいる理由がわからない。
先程までは神泉苑で雨乞いの舞を披露していたはずだ。
その際、どこぞの神の力を借りて雨を降らせてもらった。
舞い終わった直後、体から力が抜けてそのまま気を失ったことまでは覚えている。


「そして、気付いたらここにいた。なんて、わけわかんないわよ」


苛々する。
何もわからないこの状況に。
いっそのこと、普段の鬱憤を晴らすために、胸中にある罵詈雑言でも吐いてみるか。
そう思い、すっと息を吸ったときだった。

ふいに、息苦しさが消えた。

恐る恐る目を開けてみても、そこは先程までと何ら代わり映えのない白。
だが、確実に周囲の空気が違っていた。


「どういこと……?」


伺うように辺りを見回しても、何の変化も見られない。
それなのに、視線を感じる。


「あなたは一体、誰」


そっと囁けば、クツクツという笑い声が聞こえる。
一つではなく、複数。
姿が見えないのは何かの術を使っているからか。
それとも、それ以外か。
今の状況を考えると後者である可能性の方が高かった。
存在を感じるが、姿は見えない──神かもしれないと。


「神泉苑で私に力を貸してくれた神?」
── いかにも

半信半疑だったが、相手からの返事が来る。
それを聞いて、やっぱりと独りごちた。


「それで、私に何の用でしょう?」
── 汝に我らの力を貸そう


……意味がわからない。
どうしていきなりそんな話になるのだろう?


「力を貸してもらう理由がわかりません」


神の力を借りるというのは魅力的だが、神泉苑でのことを考えると使う度に自分は倒れる羽目になりそうだ。
それに、神が浅水に力を貸す理由が見当たらない。
初めて会った人間に、そうそう神の力など与えて良いものではない。


── 汝は星の一族であろう?星の一族は龍神の神子に仕える
── 我ら四神、元は応龍に仕えるもの
── 応龍を失い、力をも失った白龍に仕えるつもりはない
── ならば、力を欲している者に我らの力を


次々と言われる言葉に目を白黒させる。
四神は応龍に仕えていたが、力を失った今の姿の白龍には仕える気がない。
力を求めている人に、自分たちの力を貸すという。
それが自分なのは、星の一族であるからなのか……。


── 汝はどうする?
── 我らの力を求めるか?





力があれば、望美たちに同行できるかもしれない。



九郎だって、自分のことを認めてくれるだろう。



「私、私は……」




浅水はしばしの間悩み、ようやく口を開いた。










四神が出てきましたが、浅水は四神の神子にはなりません
2007/1/21



 
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