重なりあう時間 | ナノ
京編 拾漆





弐拾弐話
 笑顔のまま眠る






舞剣を自分の手足のように動かし、楽に合わせて舞う。
見事な舞だが、舞っている本人の胸中は複雑だった。
舞台に上がりこうして舞ってはいるが、雨を降らせる自信ははっきり言って、ない。
現代人から言わせて貰えば、舞で雨など降るわけがないのだ。
望美は白龍の力を借りて雨を降らせたようだが、白龍の神子として出来て当然。
むしろ望美好きの白龍のことだ。
自分から雨を降らせるとでも言ったのだろう。


(大体、自然現象を人間の力で何とかできてたまるもんですか)


あぁ、だけどこのままでは自分は雨を降らすことが出来ない。
楽だって、そう長く続くわけではないのだ。
それまでにどうにかしないと。
次第と焦燥感が募ってくる。



── 雨を、降らせたいか?



不意に聞こえてきた声に、浅水は舞に合わせてゆっくりと周囲を見回した。
空耳だったのだろうか?


(そんなことより、考えろ。どうしたらいい?どうしたら……)


今は一秒でも惜しいのだ。
余計なことに意識を取られてはいけない。



── 汝が雨を望むなら、我らが力を貸そう



再び聞こえてきた声に、眉を顰めようとしたが、流石にそれは出来ず内心に留める。


(あなたは誰?)
── 我ら、汝等人間が神と呼ぶもの
(なぜ私に力を貸すというの?何の有益にもならないと知っているのでしょう?)
── 無論。だが、それが無益というわけでもない。選択の時間は短い。どうする?


この問いかけは、いくら神だと言っても意地悪というもの。
だが、時間がないのも事実。
雨を降らせてくれるというのなら、降らせてもらおうではないか。


(あなた様がいかなる神かは存じません。けれど私に力を貸していただけるというのなら───お願い。雨を、降らせて)
── 容易いこと


そう返事が返ると同時に、ぽつりぽつりと冷たい物が空から降ってくる。
それは次第に量を増やし、雨となり大地に降り注ぐ。
雨は、浅水が舞を舞ってる間降り続けた。

(ありがとう)
── 何、我らも汝が気に入っただけの話。礼を言われるいわれはない
(それでも、礼を言わせて。本当に助かったわ)


舞が終わった後、浅水は空を見上げ目には見えない神と会話をしていた。
何とかこれで熊野の体面は保てた。
ホッとしたと同時に、体から力が抜けていく。
その場に膝をついたことで、自力で立てないくらいに体力が消耗していることに気付いた。


(舞くらいでこんなに体力を使うなんて……)


有り得ないと思うと同時に、一つの可能性に思い当たる。
ハッとして空を見上げる。


── 我らの力を使ったのだ。多少の消耗は覚悟して欲しい


そういうことはもっと先に言ってくれ。
他にもいろいろと言いたいことがあったが、体が言うことを聞いてくれない。
浅水は力を失った人形のように、その場に崩れ落ちた。


「浅水!」
「浅水さん、大丈夫ですか?」


急に気を失った浅水に慌てて弁慶とヒノエが駆け寄る。
そっと名を呼んで体を揺するが反応はない。
一応脈と呼吸も確認するが、異常は見られなかった。


「……今の気配、四神?」


浅水から少し離れた場所にいる白龍は、ことりと首を傾げると、ぽつりと呟いた。





── 我らも汝と共にあろう





何か聞こえたような気がしたが、意識を手放した浅水にはよく聞こえなかった。










雨乞いの舞い終了
2007/1/19




 
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