重なりあう時間 | ナノ
京編 拾陸





弐拾壱話
 幕を下ろして舞台袖へ逃げる






弁慶に手を引かれて望美、九郎、後白河院の元へ近付く。
だが、三人は話に夢中なのか二人の姿に気付いていない。
小さく溜息を吐き、二人に助け船を出すために浅水は弁慶から離れ、更に近付いた。
元は自分が遅れてきたせいでとばっちりを受けたような物だ。
こればかりは自分にも非がある。


「院、それくらいにしてはいかがですか?二人とも困っていますよ」


降って湧いたような声に、望美と九郎の顔がぱっと明るくなった。
何を思っているか、一目でわかるその表情に失笑を隠し得ない。


「おぉ、ようやく来たか。待ちかねておったぞ」
「申し訳ございません、仕度に少々手間取りまして」
「よいよい、おぬしが来てくれて嬉しいぞ」
「まぁ、嬉しいことを言って下さる」


うっすらと笑みを浮かべ、後白河院と望美たちを見る。
その際、望美に目で合図を送れば、それを的確に理解してくれたようで九郎の腕を掴み、その場から弁慶の元まで退いた。
とりあえず、第一関門突破。
ホッと胸を撫で下ろし、さてどうしようかと次の策を考える。


「次はそなたが舞ってくれるのだろう?」


ついに来た、と内心舌打ちをする。
自分が姿を現すということは、舞を披露しなければならない。
この場から逃れるためには、それ以外の理由を考えなくては。
素早く頭を回転させると、チラリと望美を見た。


「お言葉ですが、院。雨は先程の舞姫が降らせてくれた様子。それで私が雨を呼べなければ、立つ瀬がありませんわ」


あえて望美のことは明確な名で呼ばない。
ここで呼んでしまっては、弁慶以外の人に疑われてしまう。
浅水が雨は降ったのだから、これ以上舞う必要はないと遠回しに言ってみた。
だが、一筋縄ではいかないのが後白河院である。
首を横に振り、とんでもないことを言う。


「何を言うか。それでは何のためにお主を呼んだのかわからんではないか」


期待を込めた視線を送ってくる後白河院に、今度こそ頭を抱えたくなる。
望美が雨を降らせたのだから、自分なんかの舞は捨て置いて欲しい。


「さ、早う」


促され、渋々と舞台の上へ上がる。
はらりはらりと桜が舞う中、腰の舞剣を構える。
これで雨が降るとは思えないが、踊りを見せれば満足してくれるだろうと信じて。


「弁慶さん、あの人は一体誰なんですか?」
「白拍子とは少し違うみたいだな。あれが後白河院が待っていた人物か」


弁慶の方へ避難していた二人は、舞台に上がった浅水を見て口々に言った。
浅水が翅羽と同一人物であるということには気付いていないらしい。


「ええ、後白河院がわざわざこの日のために呼んだ、熊野の舞姫ですよ」
「熊野から?!」
「へぇ〜、そうなんですか」


説明を受け、舞台にいる浅水に目をやる。
そこには舞剣を構え、始めの一音を待つ浅水の姿。





程なく、楽が始まり浅水が舞い始める──。










望美と九郎は浅水に気付いてません(爆)
2007/1/17



 
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