重なりあう時間 | ナノ
京編 拾肆





拾玖話
 閉じたドアを開くのに躊躇いはいらない






翌日、梶原邸へ向かえば、そこには朔の兄である景時の姿があった。
探す手間が省けたと思うと同時に、あれ?と首を傾げる。


「もしかして、地の白虎?」
「やはり君にはわかりますか」


いつの間に側にいたのか。
声に振り返れば直ぐ側に弁慶が見えた。


「一応、ね。これでも役目は忘れてないよ。てことは、あってるんだ?」
「ええ、これで残りの八葉は後二人ですね」
「翅羽さん、ヒノエくんおはよう!」


弁慶と話していると中から望美がやってきた。
既に支度は終わっていたのだろう。次々とやってくる人たちと挨拶を交わしながら、再び鞍馬山へ向けて出発する。
肝心の結界も、景時のおかげですんなり解除された。
だが、それで終わりではなかった。


「誰もいない、か」


何とか目的の場所にたどり着いたが、肝心の先生が見付からない。
折角きたのに、無駄足だったか。


「もしかしたら、神泉苑にいるかもしれません」


どこか核心めいた望美の口調に、浅水の目が光る。
やはり、彼女は何かを知っている。
自分が望美たちの知らないことを知っているように、自分の知らない、何かを。


「なら、神泉苑に行ってみようか?」
「いや、今神泉苑では雨乞いの儀の準備で入れないんだ」
「そうなんですか?」


邸へ戻る最中に交わされいた会話が、浅水の中に引っかかった。


雨乞いの儀。


九郎の言葉を聞くまですっかり忘れていた。
それと同時に、自分がみんなと一緒にいられる時間も思っていた以上に短いことを知る。
このまま時が止まればいいのに。
だが、そうも言ってはいられない。
ヒノエと約束したのだ。
自分は熊野で帰りを待っていると。





ヒノエは既に何処かへ出て行ったのだろう。
邸で時間を持て余した望美たちは庭へ出ていた。
浅水は縁側で、そんな望美たちの姿をただ見ていた。
会話は耳に届いてくるが、ぼうっとしている浅水の中には入ってこない。
そんな時「星の一族」という単語が聞こえた。
その単語は浅水の気を引くのに充分な物で。
会話が聞こえる方へ顔を向ければ、いつの間に来たのか朔と景時の姿もある。


「お祖母さん、星の一族だったんじゃない?」


望美の言葉に、正解、と内心呟く。
龍神の神子をサポートするのが星の一族の役目。
ひいては、分家である浅水の役目でもある。
だが、今の望美にはそのサポートはいらないようにも思える。
どうしてそう思うのかはわからない。
それは星の一族が持つ先見の力というよりは、直感。

少し、望美と話してみようか。
そうしたら、何かわかるかもしれない。
話が終わり、散り散りになって一人佇んでいる望美に、浅水は近付いた。


「望美、ちょっと話さない?」
「翅羽さん、いいですよ。何を話しましょうか」
「そうだな……望美のことを知りたいんだけど」
「私のこと、ですか?」


それから夕方になるまで、二人はたわいもない話をして過ごした。










今回はちょっと短め
2007/1/13



 
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