重なりあう時間 | ナノ
京編 拾参





拾捌話
 「さっきはごめん」と謝るところ






綺麗な桜並木の下。
普通なら、ゆっくりと桜を観賞するのだろうが、今の状況でそれが出来るとは思えなかった。
目の前には自分の答えを待っているヒノエ。
みんなの所に戻るためには、ヒノエの腕から逃れなければいけない。
仕方ない、と諦めると同時に浮かんだ疑問が口をついて出た。


「もし、望美の捜し人が私だったとして、それならどうして会ったときにわからないんだろうね……」
「それは……」


浅水の呟きに思わず言葉が詰まる。
確かに浅水が言った言葉はヒノエの中にもあった言葉。
どうして望美は浅水のことがわからなかったのか。
となると、やはり単なる同姓同名か。
悩み始めたヒノエを見て、少々罪悪感を感じる。
望美が自分に気付かなかったのは当然のことなのだから。
この世界で暮らした十年。
それは外見だけではなく、人を変えるのに充分な時間。


「ヒノエ、そろそろ戻ろう」


小さく服を引いて自分の方へ意識を向けさせる。


「そうだな。オレとしては、アイツのいる場所へ戻るのはあんまり好ましくないけど」


ぼやくヒノエに思わず苦笑しながら、二人はみんなが待っている場所まで戻った。










戻った浅水は真っ先に弁慶の側へ行った。
じっとその顔を見つめ、そこに浮かぶ愁いの色に肩を竦める。
自分が思っていた以上に彼も気にしていたらしい。
そっと自分が叩いた頬に触れれば、少なからず驚かれる。


「ごめん、痛かったよね」
「いえ、僕の方こそすいませんでした」


謝罪の言葉を述べれば、同じように謝罪が返ってくる。
それに満足した浅水は、うっすらと笑みを浮かべた。


「なら、お互いさっきのことはなかったことにしよう」
「いいんですか?」
「悪かったと思ってるなら、これ以上言うことはないよ」


ね?と首を傾げて同意を求めれば、一度瞬きをしてから微笑を浮かべる。
ようやく見せた普段の顔に浅水は満足したように頷いた。


「みんなも、悪かった」


素直に一連の行動と足止めさせたことを謝れば、驚いたようにしながらもそれを許してくれた。
特に驚いていたのは九郎だろう。
その理由は、彼のみぞ知る。


「じゃ、揃ったところで出発しよう!」


元気に言った望美の一声で、ようやく下鴨神社から先へ進むこととなった。
だが、ようやくついた鞍馬山でも足止めを余儀なくされた。
結界が張られていて、一定の場所から先に進めないのだ。


「この結界を解かないと先に進めない、か」


コンコンと結界を叩きながら小さく呟く。
望美たちは少し離れた場所でどうするか話している。
流石に結界解除は専門外だ。
この場に陰陽師がいれば、結界を解除出来るかもしれないのに。


「八葉の中に一人くらい、陰陽師がいそうだけどね」


過去の八葉の中に陰陽師がいたことを思い出し、この場にいないことを悔いた。
だが、今いる八葉はまだ五人。
もしかしらた残りの三人の中に陰陽師がいるかもしれない。
そう思案しているうちに、望美たちの話もまとまったらしい。


「話は決まった?」


浅水の方へやってくるみんなに声を掛ければ、はい、と望美の元気な声が返ってくる。
聞けば、朔の兄が陰陽師らしい。
ただ、今はどこにいるかわからないため、探すところから始めなくてはならないとか。
ひとまず、山を下りて邸に戻ることになり、その後浅水とヒノエは六波羅のアジトへ戻った。










端折ります
2007/1/11



 
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テーマ「人外ファンタジー」
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