重なりあう時間 | ナノ
京編 拾
拾伍話
大嫌い、それでいいじゃないか望美に連れられて現れた将臣は、自分の知っている人物のようで、別人のようでもあった。
別れて十年も経っているのだから、仕方がないと言えば仕方がない。
「将臣も八葉、だね」
「あ?何だそりゃ」
嬉しそうに言う白龍に聞き返せば、今度は他の人が説明をする。
そんな光景を微笑ましく見ながら、その中に入っていかない浅水。
「いつもならあの中に入っていくのに、今回は入らないんですか?」
弁慶の言葉に、小さく舌打ちしたのを彼は聞き逃さなかった。
舌打ちするということは図星ということ。
入らないのは何か思うところあっての物か。
否、それとも入れない理由でもあるのか。
(彼女の性格からすれば、後者でしょうね)
聞いておきながら、内心で結論づける。
目の前で再会を喜ぶ光景は、別段変わったところもない。
「ところで、浅水は一緒じゃないのか?」
将臣の一言に、望美と譲の表情が一気に曇った。
ただごとではないその様子に、将臣の眉が顰められる。
「浅水ちゃんは、まだ……」
「……そっか」
望美の一言で察したらしい将臣は、望美の頭を優しく撫でた。
そのまま慰めるように変わらぬ口調でおどけてみせる。
「あいつのことだ。俺みたいに何とかやってるだろ」
「そうかもしれませんね。でも、あれでも一応女性ですし」
「譲くん、いくら従姉妹でもそれは酷くない?」
譲の一言はどこか酷いと取れなくもないが、望美の顔に笑みを浮かばせるには充分な物だった。
「その話、もう少し詳しく聞かせて欲しいね」
そして、タイミングを見計らったように、ヒノエが会話に割って入る。
言ってなかったっけ、と望美が説明を始めた。
「あのね、この世界に来たとき、もう一人一緒だったの」
「俺たちの従姉妹で、七宮浅水と言うんです」
「七宮、浅水……?」
ヒノエは譲の言葉を繰り返してから、視線だけで浅水を見た。
どうやら弁慶と話しているらしく、こちら側からその表情は見えない。
望美の探している人物が、自分の知っている人物だったら?
けれど自分は十年も前から一緒にいるし、望美と会ったときも初対面のようだった。
単なる同姓同名だろう。
そう自己完結をする。
けれど、浅水もどこから来たのかわからないままだったか、とそんなことも頭の中をよぎる。
「ヒノエくん、知ってるの?」
「いや。ただ、似たような名前を聞いたことがあってね」
「そっか……」
少し考え込んだヒノエに望美は期待したようだが、返ってきた答えにがっかりと肩を落とす。
それを慰めてやれば、何かを決意したように顔を上げる。
強いな、と素直にそう思った。
「でも、何かわかったら教えてね?」
「もちろん、姫君の頼みだからね」
笑顔で応えれば、それにつられるように笑顔が返ってくる。
譲が恐い目でヒノエを見ていたが、あえてそれは見ないことにした。
「神子、私も気配を感じたら教えるね?」
「私も手伝うわ」
「仕方ない、俺も何かわかればお前に教えよう」
次々と協力に名乗りを上げる仲間に、望美は再び笑顔で礼を言った。
そんなときだった。
パンッ、と小気味よい音が響く。
何事かと音のした方を見れば、そこには浅水と頬を押さえる弁慶の姿。
それだけで、何があったのかは予想が付いた。
「弁慶のそういうところ、大嫌い」
浅水の声が、やけに大きく響いた。
口よりも先に手が出るタイプ
2007/1/5