重なりあう時間 | ナノ
京編 玖





拾肆話
 醒めない夢






九郎と望美の花断ちの翌日。
今度は二人の師匠である人に会うために鞍馬山へ行くことになった。
その道中、下鴨神社へ近付くにつれ望美の様子がどこか違う事に気が付いた。
何か気になることでもあるのか、どこか落ち着きがない。
それに気付いたのは浅水だけではないらしい。


「神子の気、乱れてる」
「姫君は何か気にかかることでもあるのかな?」


白龍は当然のこととして、流石ヒノエ。
女性の事になると誰よりも鋭い。
熊野にいたときもそうだったが、京に来ても……いや、どこにいてもヒノエはヒノエなのかもしれない。
そう思い、そっと溜め息を吐く。
そこであれ?と首を傾げた。
どうしてそこで自分が落ち込まなくてはならないのか。
こんな事は日常茶飯事だったはずなのに。


「……嫉妬?」


ぽつりと声に出してみて、そんなこと有り得ないと否定する。
どうして自分が嫉妬しなくてはならないのか。
相手は十年も一緒にいたヒノエだというのに。
今更こんな思いをするなんて。
でも、このもやもやした気持ちは消えてはくれない。
どうしたもんか、と思っていた瞬間。


「将臣くん!」
「兄さんっ?!」


大きく名を呼んで駆け出す望美。
はっと気付いて顔を上げたときには、誰もが望美を追っていた。
軽く頭を振って思考を切り替えると、望美たちが駆けたほうへと足を向けた。

少し遅れて着いた場所には、見覚えのない人物の姿があった。
望美と譲が話しているということは、二人の知り合いだろう。
自然、それは浅水の知り合いと繋がる。

それは、この場にいないもう一人。

自分の大切な、もう一人の従兄弟。

もしかしたら違っているかもしれない。
でも、望美だけならともかく、譲まで一緒にいるのだ。
十中八九、当たっているのだろう。


「……将臣」
「彼も、君の知り合いですか?」


そっと呟いたはずの言葉を聞き咎めた弁慶は、浅水の隣に立っていた。
そんなことも気にならないくらい、浅水はただただ目の前にいる将臣を見つめていた。

将臣も、別れたときとは随分と違っている。
短かった髪は肩程まで伸びているし、持っている刀だって随分と大きくて立派だ。
あれほどの刀を扱えるようになるには、相当の期間が必要だったのではないだろうか。

あぁ、でもその笑顔と態度は変わっていない。


「さぁ、どうだろうね」


自分の記憶にある姿と同じ場所を見つけ、嬉しそうに笑みを浮かべた浅水に、弁慶は少し考える仕草をした。

「君は……」
「みんなに紹介するね!幼馴染みの将臣くん。私たちより三年も前にこの世界に来てたんだって」


弁慶の言葉を遮るように望美が将臣を連れてやってきた。

三年。

望美の言葉に小さく目を見開く。

三年前、自分は夢を見続けなかったか。

激流に飲まれた、あの日の夢を。

望美たちが来る前も、見続けたあの夢を。



もし、あれがそうだったとしたら。



三年前のあの夢は、将臣がこちらの世界に現れたということ。
どうして、もっと早く気付かなかったのだろう。
もっと早く気付いていれば、将臣とは三年前に再会できていたはずなのに。


いつも、肝心なところで使えない。



起きてからでは、全ては遅いというのに……。



不甲斐ない自分に唇を噛み締めた。










何故将臣がいるのかはスルーの方向で
2007/1/3



 
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