重なりあう時間 | ナノ
京編 捌
拾参話
待ち合わせの約束神泉苑から帰るとみんなと別れ、浅水とヒノエは六波羅のアジトへ戻った。
「説明、してくれる?」
突然部屋へやって来た浅水に目をしばたかせながら、何のことを言っているのか理解すれば小さく苦笑する。
昼間、ヒノエが神泉苑で九郎に言ったことを気にしているのだろう。
真剣な目をしている。
「説明も何も、本当のことだろう?」
「でも、私は帰るなんて聞いてないんだけど」
それは言ってないから、とは内心で呟くだけに留めておく。
実際に言葉にしたら、辛辣な言葉が返ってくるのは目に見えている。
昔から、ヒノエは浅水と弁慶の毒舌にかなわない。
自分と同じくらいの年なのに、どうしてそこまで言葉が出てくるのか、よくよく不思議だった。
それも今では小さい頃から弁慶と一緒にいたから、移ったんだと思うようにした。
説明する言葉を探しながら浅水を盗み見る。
真っ直ぐに自分を見つめる瞳は、ごまかすことを許さない。
「確かに、お前を京に誘ったのはオレだけど、舞のためって言っただろ?だから、それが終わったら帰る。当たり前のことだね」
「ヒノエッ!」
バンッ、と畳を叩く音が響く。
浅水とてわかっているのだ。
ヒノエの言っていることに間違いはないことくらい。
それでも、感情が邪魔をする。
ヒノエが小さく溜息をつくのがわかり、瞳が揺れる。
また、やってしまった。
外見が外見なせいか、いつも自分の年を忘れてしまう。
本当は、もっと上手く立ち回るはずだったのに。
「あのさ、オレは浅水を戦になんて出したくないんだよ。だから、戦が始まる前に熊野に帰したいわけ」
「それは私が熊野の神子だから?」
態度はいつも通りだが、ヒノエの言う言葉の端々に真剣味が伺える。
けれど、それ以外の理由のせいで浅水は返す言葉に力がない。
それを見て、ヒノエの表情がわずかに変化した。
だが、落ち込みモードに入った浅水はそれに気付かない。
「浅水」
ぐい、と腕を掴まれた。
次の瞬間には、浅水はヒノエの腕の中。
ぱちぱちと数回瞬きすれば、自分の顔の横に朱が見える。
「熊野の神子だからとか、そんなの関係ない。オレが、嫌なんだ」
「ヒノエ……」
「オレは八葉だから、望美の側にいなくちゃいけない。だけど、浅水は違う」
ヒノエの言葉に、違うと口走りそうになる自分を抑える。
こんなことになるなら、もっと早く言っておけばよかったのだろうか。
そうすれば、自分も一緒にいれたのに。
「だから、浅水は熊野で待っててくれないか。大丈夫、ちゃんと帰るさ」
「……わかった。雨乞いの舞が終わったら、熊野に帰るわ」
小さく頷けば、安堵したようなヒノエの表情。
「ちゃんと無事に帰ってきてくれるよね」
「もちろん、姫君の願いとあらば」
いつも、交わした約束を違えることはなかったから。
だから今回も大丈夫だろうと納得して。
浅水は自分の役目が終わったら、熊野へ戻ることを約束した。
浅水サン暴走中。
本当は将臣を出す予定だったのに……ッ(悔)
2006/12/30