重なりあう時間 | ナノ
京編 伍





拾話
 罵るなら罵るで貫け






「この、ブラコンめ」


地の底を這うような浅水の声に、ヒノエは曖昧な笑みを浮かべた。
内心はこの事態を引き起こした九郎に合掌。





六波羅を出た後、一行は九郎がいるという法住寺へとやってきた。
そこで弁慶が望美たちも同行する旨を伝えれば、案の定九郎が反対。
すると今度は望美がそれに反発し、実力を見せれば同行するという約束を取り付けたのだ。


「おい、そこのお前」
「私のことか?」


神泉苑へ向かおうという矢先、九郎は浅水を呼び止めた。
それに何事かと周囲の視線が集まる。
呼び止められた本人も何のことかと首を傾げている。


「お前も同行するんだよな?見たところ、帯刀はしていないようだが……女のような優顔で腕は立つのか?」
「顔と実力は関係ないだろう」


九郎の言葉に、浅水の頬が引きつった。
女のような、と九郎は言ったが、男の恰好をしていても、浅水はれっきとした女だ。


「それはそうだが、いざ戦のときに戦えんのでは足手まといだ。そうでなくとも、女子供が増えたというのに、これ以上増えては俺の手に負えん」


九郎の言葉に浅水の怒りが沸々と沸き上がってくる。
それを見ていた望美と譲と朔、白龍は心配そうに二人を交互に見る。
ヒノエはこれから起こるであろう事態を想定して、弁慶は……にこにこと笑顔を浮かべながら九郎を見ていた。


「それに、お前たちを庇っていたら、兄上の役に立てない」


それに憂いて溜め息を吐く九郎に、浅水の怒りは頂点に達した。


「兄上兄上、お前の中心には兄上しかいないんだな」
「何?お前、兄上を侮辱するなっ!」


言いながら思わず九郎は刀に手を掛けた。


「ちょっとそれはやり過ぎなんじゃない?」


ヒノエの言葉と同時に弁慶がその手を上から掴めば、思っていたよりも強い力に動きが取れない。


「ッ、離せ!」
「すいませんが、あの人を傷付けさせるわけにはいかないんです」


にっこりと微笑みを浮かべている弁慶だが、その目だけは笑っていなかった。
それに身の危険を感じたのか、九郎は思わず刀から手を離す。


「黙って聞いてれば言いたい放題。弁慶、これが本当にあの九郎義経?」
「君の言う九郎がどの九郎かは知りませんが、確かにコレも九郎義経ですよ」
「こんなに青くて頭が固いのが九郎義経だなんて、世も末だね。大将なんだから、少しは落ち着きも必要だろうに」
「なっ、誰が青くて頭が固いと言うんだっ!」


九郎が浅水の言葉に顔を赤くして反応すると、それを聞いていた望美たちが小さく吹き出した。
弁慶は納得し、ヒノエも思わず失笑している。
みんなの反応を見て、九郎は更に赤くなった。
再び声を荒らげようとした、次の瞬間。


目の前にいた浅水の姿が、消えた。


かと思えば、首筋に何か冷たい気配を感じる。
恐る恐る視線を動かせば、そこに当てられているのは銀色の刃。
匕首(あいくち)と同じような作りだが、匕首よりも若干短い。


「ほら、注意力散漫。隙だらけ」


自分の後ろから聞こえてくる声に、九郎は冷や汗が一筋流れるのを感じた。


「最後に一つ。顔で実力が決まる訳じゃないよ」


そう言うと首から短刀を離し、懐にしまう。
そのまま九郎を振り返ることなくヒノエの元へ。


「弁慶、アレは何なんだ?」
「ふふ、君には勿体なさ過ぎて教えてあげません」


その一連の動作に呆気に取られ、弁慶に問う。
だが、弁慶からも良い返事は返ってくることがなかった。










九郎は嫌いじゃないですよ(笑)
2006/12/24



 
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