重なりあう時間 | ナノ
京編 参





捌話
 会いたかった






「それにしても、熊野にいる君がどうして京に?」
「あ〜……ちょっと、野暮用?」


浅水と弁慶はお互いの近況を話ながら歩いていた。
向かう先は、弁慶が先程まで一緒にいた人たちが行った場所。
それは、ヒノエがいた場所に近かった。


「それにしても、弁慶たちは集団で誰を追っていたわけ?」


これ以上詮索されないように話題を変えれば、彼の目が一瞬揺らいだ。
軍師である弁慶が動揺するなんて珍しい。
明日は槍でも降ってくるかな、と雲一つない空を思わず見上げた。



「僕たちは龍神の神子を追っていたんですよ」



その一言に、思わず足を止める。
ゆっくりと首を動かし、弁慶を見つめれば彼の足も浅水と同様に止まっている。
弁慶には既に自分が何者であるかを話している。
ヒノエには告げていない、自分自身のこと。


「龍神の、神子」
「えぇ、君も噂くらい聞いているでしょう?それに、君には関わりのあることだ」


視線を逸らし、小さく唇をかんだ。
自分が何のためにこの世界に呼ばれたのかずっと疑問だった。
十年もたてば、来たときに小さくなった体も、すっかりこの世界に来る前と同じになっている。
元の世界に戻る術もなく、このままこの世界の一部になるしかないと思っていた。


それなのに、今更。


「やはり龍神の神子というのは、浅水さんと同じ世界からやってくるんですね。望美さんと譲くんも異世界からやってきた」


ぴくり、と浅水の耳が動いた。

今、彼は誰の名前を言った?

その名前は、自分にも聞き覚えがある。

十年経ってはいるけれど、決して忘れたりはしない。


「望、美……?」


信じられない物を聞いたかのような浅水の声に、弁慶の眉が寄せられる。


「……望美さんを、知っているんですか?」


探るような問いに、わからない、と小さく首を振る。
ただ、名前が同じなだけかもしれない。
全くの別人とも考えられる。
だが、望美と譲。
こんな偶然の一致が果たしてあるのだろうか……?


「とりあえず、みんなと合流しましょう。会った方が早いかもしれません」


弁慶に促され再び歩み始める。
だが、その足取りは酷く重い。
しばらくして辿り着いたその場には、自分の見知った赤もあった。


目の前で会話が交わされる。


けれど、自分の耳には何も入ってこなくて。


目の前にいる人物に、視線は釘付け。


だって、もう会えないと思ってた。


大好きな従兄弟の一人と、幼馴染み。


どうして、貴方たちがここにいるの?


龍神の神子って、一体誰?





ねぇ





誰か





教えて。










望美と譲は名前だけ登場
2006/12/18



 
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