僕らどうやって永遠になろう


夢が切れて、目を覚ますと、夜明け前だった。
名前は僕の隣で膝を抱えて座っていた。

「眠れないの」

と言い訳するように、名前はくしゃりと笑った。

大きな目は鈍く光り、頬にも唇にも血の気がない。細い肩を抱きしめるように丸まるその姿は、痛みつけられた子どものようだった。

「そんな顔しないで。赤司君のせいじゃないよ」
と名前はまた言った。
名前と寝るのは初めてだった。僕は何も言えないまま、ベッドから抜け出した。

台所には、昨夜2人で食べた鍋と、飲みかけのワイングラスが転がっていた。
棚からマグカップを、冷蔵庫から牛乳を取り出して、ちらと後ろを振り返る。
名前も僕を見ていた。

チン、と間の抜けた音がした。

レンジをくぐった牛乳は、表面に白い薄膜が張っていた。
湯気の立つそれを、名前は両手で包み込むように受け取った。

「飲める?」

名前は答える代わりに、白い喉をこくりこくりと鳴らした。
どうしてか、その姿は深海魚を連想させた。名前はシーツにくるまれていたが、ほとんど何も身につけていない。食道も胃も心臓も血管も透けて見えそうだった。
僕は近くにあったパーカーを引っさげて、彼女のいるベッドに戻った。

「これが世に言う、彼シャツってやつ?」
と名前は笑う。

「いいから暖かくして、少しは寝た方がいい」
「でも、あとちょっとで始発の時間だし、授業あるから」
「そんなこと、どうでもいいだろ」

僕はなるべく何も考えないようにしながら、名前の肩をゆっくりと倒した。首のところまで布団をかけてやると、名前の周りの空気がふわっと緩んだのが分かった。頬に赤みが差して、目の奥の鈍い光は消えていたので、僕は落ち着きを取り戻した。


「ねえ、赤司君」

僕がベッドの端に腰かけると、名前は掛け布団から両手を出して、僕のシャツを引っ張った。

「なに?」
「子守唄うたって」
「……無茶振りだな」
「何のためのお育ちの良さですかー?」
「あのね、そりゃあピアノやバイオリンはやらされたけど、歌となると別だよ。僕にそんな器用な真似できると思う?」
「じゃあ」

僕は右手に体重をかけて、名前の顔を覗き込むようにしていた。
名前はその右手を肘のところから、自分の方へぐいと引き寄せた。
思わずバランスを崩した僕を、胸の中におさめると、名前は「きすして」と言った。

「おやすみのキスをして」

僕はなるべく名前を刺激しないように体勢を立て直し、もう一度顔を近付けた。
名前は深く息を吐き出した。

まぶたを閉じた名前は、あどけない少女のようだった。ひたいに張り付いた前髪をひと束のけてやると、かすかな寝息が聞こえ始めた。

僕はしばらくそのままでいた。
閉じたカーテンの隙間から、細い光が射している。


朝だ。




20171227
titled by さよならの惑星





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