あらすじにない台詞を吐いてきみの目を
体育館裏で決めていた。
ネイルを塗ってスカートも少し短くして、自分の女子にエンジンをかけていたのは他でもない彼のためだったのに。
扉を開けたのは赤司征十郎、その人だった。爽やかな水色のジャージ、薄気味悪い双眸。
それらを認識した途端、言葉より先に舌打ちが飛び出していた。
「おやおや、結構なご挨拶じゃないか。そう見つめないでくれるかな」
「あらぁ、睨みつけてるの間違いじゃあなくって?」
「ははは、そう照れなくてもいいのに」
あたしの顔を見直すと、赤司は含んだような笑みを浮かべた。よくもまあ、毎度毎度ひとを苛立てるツボを押さえてくるものだ。
ひょっとしたら裏千家ならぬ赤司千家でも開いているのかもしれない。
ふざけんなボンボン。
「今日はやけに綺麗だね。緑間のために人事を尽くしてきたのかい?」
「分かってんならお着替え中の彼を呼んできてよ」
「それはできない相談だな。そんなことぐらい、君だって分かっているだろう?」
遠くから二軍の一年生の声がして、赤司は目を細めた。
入部してからまだ半年だからか、挨拶の声が明るい。怯えるように俯いてない。
ちょっと羨ましいと思ったけれど、霧散した二年間と、今奪われている二分間とでは、あたしの秤はきっと二分に傾く。
「あーはいはいはい、バスケ部員は恋愛禁止? 緑間の練習の、なんだっけ?」
「そう。邪魔だ」
「知ってるよ、青峰には練習に来んなって仰ったくせにねぇ?」
「それとこれとは話が違うだろう。それとも君は緑間と青峰が同じ人種だと」
ああ。
この男が邪魔だ。
どうして主将という地位で満足できないのか。どうして全てを支配下におこうと佇むのか。
「馬鹿言わないで。あんたが許可したかしてないかの違いでしょ?」
「ご名答。なのによく懲りないね。感服するよ」
「そちらこそ。いい加減あんたの完璧主義には敬意を表するよ」
赤司はそのままの笑顔で、「どういう意味?」と訊き返した。
「手元の駒にひとつでもわかんないことがあったら気が済まないんでしょ? 王様としては」
いつの時代も、ひとの恋路を邪魔する理由は最低だ。
赤司が唯一預かり知らぬものを、駒の分際で手にしてるのが気に食わないってだけ。
本当に、ふざけた話。
「あっ、緑間くん!」
「……またお前か」
「またですよー。ね、良かったら一緒に帰らない?」
「どうせ断っても無理についてくるんだろう……赤司、いいか?」
彼は呆れたように言うと、赤司に視線を向けた。
どうしようかな、と顎に手を当て赤司千家発動、と思いきや赤司はひらひらと手を振った。
「いや、僕は先に帰るよ。お邪魔みたいだしね」
「お、おい!?」
「じゃあ真太郎、頑張って」
ぽかんと口を開けていた。何で、と遠ざかる後ろ姿に問うていた。
あたしを手のひらの上に乗せたつもりにでもなっているのか。
さては全て無かったことにする気か。
どうかしてしまったのか、今までで一番怒っていた。
「逃げるなよ。この、臆病者っ!」
緑間は眼鏡の奥で目を見開いた。
そうだ、あたしを見ろ。
ここにいるのはたった一人だけの、あいつの盤の外にいる人間なのだから。
「……負け犬の遠吠えって言葉、知ってるかい?」
それがアドリブであることを、少しだけ、期待していた。
title by ごめんねママ
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