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3年という年月は、思春期のあなたにとって、短いようで長いものよね。
アルバムの整理をしていると、由紀子さんはしみじみとわたしにそう言った。
大きな家具はあらかた送ってしまったせいで、3年間暮らしたこの部屋も、来たばかりの頃のようにがらんとしている。あと少しすれば細々したものも全て詰め終わってしまうだろう。
「そうですね。身体もだいぶ変わったし、不自由なく英語も使えるようになってますもん」
「ふふっ、こっちの男の子と駆け引きが出来る程度、だものね?」
「どれもこれも、由紀子さんが放任してくれたおかげです」
親父とは、「良い子になる」という約束だったが、由紀子さんがかなり許容してくれたため、ぶっちゃけ非行度は日本にいた時と大差ない。
「いーのよ、面白かったから。あなた、姉さんの子どもとは到底思えないもの」
「……どうもです」
神経質にライターを鳴らす彼女を尻目に、最後の一箱にガムテープを引っ張った。業者の人が荷物を詰めたそばから持っていくものだから、部屋にはほとんど物が無くなっていた。
「年上の社長と結婚したかと思ったら、若くしてあなた産んで、あの人は昔から何考えてるか分からなかったけど……まさか離婚するとはね」
由紀子さんは、母親と同じ形の唇で、ゆっくりと煙草の煙を吐き出した。
「由紀子さん、今更遠慮しなくていいっすよ。まさか会社の若いコと不倫して、バレたらすぐ旦那と縁切って再婚するなんて……でしょ?」
「あら、あたしの考えてたこと、すっかり見透かされちゃってたわけ」
「分かりますよ。3年も一緒に暮らしてれば。生活リズムだって、好きな場所だって、嫌いな食べ物だって……」
「それから、好きな男のタイプも」
二人で顔を見合わせて笑った。
「前から思っていたんだけど、あなた、日本に片想いの人でもいるの?」
「どうして?」
「だって、あなたが連れてきた男の子たち、共通点があるもの。どっかに明らかな理想像がある感じっていえばいいかしら」
「……当たりですね。さすが由紀子さん」
その理想像を思い描いてみる。
3年前の飛行場で、屈託無く笑ってみせた青が見えた。
彼は今、どうしているのだろう。
「その彼、うまいことゲットしたら連絡頂戴ね。法律上では他人になってしまうけど、これからも年上の女友達として付き合っていけたらと思うの」
はいっ、と返事をすると、由紀子さんは「good luck」と言ってくれた。
「今まで、本当にお世話になりました!」
これで、日本に帰れる。
そう、待ちに待った日がやってくるんだ。
青に、会える。
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