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アメリカに、留学?
桐皇じゃなくて?

今までの時間は、俺は、一体何だったんだ?


頭がまっしろになって、言葉なんて出てこない。

【いきなり音信不通になるのは、酷だと思ってね。これだけは君に伝えたくて、待ってたんだ】
「……おい、どういうことだよ。 何で渡は、」
【詳しい説明をしてる時間はない。急がないと、ゆずりはは君に別れも言わず行ってしまうよ? それに、帰国する見込みは到底ない】


今行かなければ、二度と、会えない?


「教えてもらって……いいすか」

【勿論だ。ゆずりはは12:54発、JAMの354便に乗る。アイツのことだから、搭乗手続きはギリギリまでしないで、待合とかをぶらついてるだろうな】
「搭乗手続きって何分前に?」
【普通は1時間半前くらいには済ませる。ファーストだと45分前が最低ラインだ】

ファーストクラス。そういえば渡って金持ちだった。


【桐皇から空港までリムジンで2時間ちょっとだから……ゆずりはは11時すぎには着いてる。君はかなりギリギリだと思うけど。空港までの交通費が結構かかるから、5千円くらいは持っておいた方がいいな】

携帯を耳と肩の間に挟みながら、ジーンズだけ履き替える。あとはもうジャンパーでごまかすか。


「……ひとつ、聞きたいんスけど、渡のアメリカ行きっていつから決まってたんスか」
【2週間ちょっと前に、婚約破棄の条件として、ゆずりはが自分で決めたよ】

じゃあ、頑張れよ。
兄貴はそう言って、ぶつりと電話を切った。


静寂が訪れる。

今は考える時じゃない。
とにかく急いで、渡と顔を合わせて、話はそこからだ。

あと……そうだ、マフラー。


真っ赤なマフラーだけ引っつかんで、階段を駆け下りて玄関に出る。さつきだかお袋だかの制止が聞こえたような気がしたが、そのまま家を飛び出した。


灰色っぽい牡丹雪が降る中を、俺はただひたすらに走り出した。



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