75

翌朝、寝ぼけ眼でリビングに降りると、なぜかさつきが茶をすすっていた。


「……んな朝っぱらから何でお前がいんだよ……」

台所から「こらっ大輝!」と怒鳴り声が飛ぶ。

「いえ、こちらこそ朝早くにすみません、おばさん。大ちゃん、合格発表ついてきてほしいなーとか思ってきたんだけど。今から行かない?」
「はぁ? 誰が行くかよめんどくせー」

するとさつきは、急に声のトーンを落とした。

「ゆずちゃんを誘おうと思ったんだけど、メールしても返事が返ってこないの……なんかあったのかも」
「渡が? あいつ返事早い方だから、寝てんじゃねーの」
「でも、もう大ちゃんが起きてくるような時間だよ? ちょっと遅くない?」

食卓の時計は9時すぎを指していた。確かに、遅い。
変な胸騒ぎがした。


「……電話掛けてくるわ」
「あ、大ちゃん、」
「大輝ー、朝ごはんはー?」
「外で食う」

ダン、ダンと階段を駆け上がり、部屋の扉を閉めた。ベッドに放置していた携帯を手に取り、アドレス帳から「渡 ゆずりは」を選択する。


プルル…プルル…
お馴染みの機械音すらもどかしい。

あの違和感が、今とは関係ないことだけを祈った。


だが、悪い予感というのは当たるものらしい。
【お掛けになった番号は、現在使われておりません】
抑揚の無い男の声が、そう告げた。


……いや、男?

「もしかして、薫さん……スか?」


恐る恐る口を開くと、受話器の向こうで微かに笑い声がした。

【全く、すごいなー。よく分かったね、青峰君。でも、驚いただろ?】
「……そうっスね」

ふざけんな、という言葉を何とか引っ込めた俺は偉いと思う。この非常時に冗談はやめてほしい。が、ということは隣に渡もいるのだろうか。


【でもな、この携帯が使われてないってのは本当だよ】
「え?」
【昨日の夜、この携帯は解約されたってことになっててな。まぁ俺がこっそりもらったからまだ使えるけど、とりあえずゆずりはの手元にはもう戻らない】


咄嗟に自分の耳を疑った。
渡が携帯を解約した、だと?

「今、渡は、どこに……」
【アイツはちょうど、合格発表を見に行ってる途中だろうな。で、その後すぐ成田空港に向かう」
「……帰省でもするんスか?」


いや、違う。あまりに急すぎる。
突然の携帯の解約。おそらく兄貴はさつきのことは知らないだろうから、メールは返さなかったのだろう。

それに、あの違和感。勉強道具も持ってこないで俺を呼び出して、様子のおかしかった渡。


それでも、帰省であることだけを願った。



【残念ながら不正解だ。ゆずりはは今日、日本を発って……

アメリカに留学する】



prev/next
back

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -