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2月3日午前8時50分。食卓のデジタル時計を見て箸を止めた俺を、お袋はいぶかしげに見た。お袋は少ししてから、納得したように頷く。
「今日だったわね、桐皇の一般入試」
さつきちゃんも受けるんだって、なんだかんだ言って気になってるんじゃないの。ピーチクパーチクわめき立てるお袋を、「ちげーし」の一言でスルーする。
今ごろ、きっと似合わない真面目な顔で解答用紙に向かってんだろうな。
今朝一番で渡から【健闘を祈っとけw】なんてメールが来た。会場へはさつきと一緒に行ったらしいが、緊張感のカケラもないのは想像に難くない。
「ホント、最近の学校って凄いわよ。大輝、知ってる? 今晩中にはホームページで結果を出して、明日には校舎に合格発表の掲示なんだって」
「へー」
ということは、今夜には渡から結果を知らせるメールが来る。
渡いわく勝率は8割以上らしいし、さつきだって馬鹿じゃないから、桐皇ぐらいの偏差値であれば2人とも受かるだろう。
「もう、心配そうな顔しちゃって。さつきちゃんならきっと大丈夫よ」
「だから、ちげーって」
だが、渡が滑り止めを受験するという話は聞いていない。ああ見えて無計画なんかな、と首を傾げ、また妙な違和感がくすぶりはじめた。
あ、マフラー返さねぇと。
部屋に置いたままの赤い物体をふと思い出す。違和感の正体はあれを渡すときにまた考えようと決めて、味噌汁を飲み干した。
そして、渡から、
【受かったよ。あとさつきちゃんも】
そんな飾り気のない合格メールが着いたのは、朝飯から13時間後のことだった。
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