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「そういやさ、さつきも桐皇受けるらしいぜ」
やっぱマジバの方がうめーな、とか思いながら骨ばった鶏肉にかじりついていると、渡はコーンに歯を立てたまま動きを止めた。

「へ?」
「だーから、さつきも桐皇を受験するらしいぜ。願書出したって言ってた」
「さつきちゃんが? へー、いいねぇ、学園生活明るいわぁ」
「相変わらずお前の発言ってJCとは思えねぇな」

さつきのことをマドモアゼルだの天使だの言っている渡のことだ、もっとエキサイトするのかと思っていたが、案外リアクションが薄い。
まあ、いつもこんなもんか。自己完結して、袋から鶏をもう一本取り出した。


「大きなお世話だから。んじゃ、他の面子はどこの学校行く感じ?」
「他の面子?……あー、黄瀬は横浜の海常……緑間は都内の秀徳、赤司は京都の洛山、」
「え、帝、京都行くの?」
「みたいだぜ。高校バスケじゃ最強だしな、洛山」
「マジか。リアル帝じゃん」

赤司の名前が出た途端、明らかに渡の反応が変わった。
いつだったか、渡は「帝のことは好きだよ」なんてことも言ってのけていた。その時はキャラとして好き(それもどうなんだ)なのだと思っていたし、今まで見てきた中では「恋愛」という素振りは全く無かった。

でも、本当のところはどうなんだ?


「結局みんなきれいにばらけたんだ……にしても京都はハマりすぎでしょ。何で1人だけ首都圏脱出したし」
「……もう1人は秋田行ったぜ」
「そりゃまた遠路はるばる……あれ? バスケって5人でやるスポーツじゃなかったっけ? そのもう1人の彼もレギュラーなんでしょ、だったら6人じゃん」

何を今更、と言いかけて、俺が今更になってテツの元ポジションすら言ってないということに気付かされた。

俺が「渡カンパニー」のことを知らないように、また渡も「キセキの世代」のことを知らないのだ。


「いや、まあそうなんだけどよ、テツはちょっと特殊でさ……」

「キセキの世代」という単語すら知らない渡に説明しながら、初めて気付く。
俺たちの関係は、互いを『知らない』ことを前提に始まったのだと。

だから、初対面のときから「渡カンパニー」の存在を知っていた赤司じゃなくて、俺だった。俺も、息苦しくなっていたバスケからの逃げ場を求めていた。

前提どころじゃない、最初はそれが全てだった。



じゃあ、『知る』ことによって、この微妙な距離を縮めることができるんじゃねぇのか?



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