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明日の午後、空いてる?

渡から1週間ちょいぶりに来たメールには、インフルエンザの完治報告と共に、そんな一文が添えられていた。
もちろん一も二もなく了承すると、渡はなぜか落ち合う場所を変えたいと言い出した。
何でも、この前の「送迎」を親に見られたのが相当ヤバかったらしい。


そんな訳で俺は今、帝光の最寄り駅のフードコートの一席で、一人反省会を開いていた。

だってマズい、オヒメサマダッコは。嫌がらこそしなかったものの、恥ずいことに変わりはない。
何でそんな流れになったんだっけ、と思い返してみてすぐ蘇った記憶に、思わずテーブルに倒れこんだ。

渡、俺の膝の上で寝てたんじゃん。いや…正しくは気を失った、か。
どちらにしろやらかしちまったんだ、俺は。

大体あんな無防備なのが悪いんだ、と言い訳してみても、逆に潤んだ目とか上気した頬とかつたない喋り方を連想してしまう始末。手に負えない。


「……何うなされてんの、青」

「うわああああ!?」
あれは色っぽかった、なんて思っていた矢先の本人登場に、思わず叫んでしまった。渡はコートとマフラーを椅子に掛けながら、当然ながら怪訝そうな眼差しを向けた。

「び、びっくりさせんなよ。あー、心臓止まるかと思った」
「はあ? 失礼な。人のことをなんだと思ってるんだか」
呆れたように言いながら荷物を置くと、椅子には座らずに財布だけ取り出して、俺を見た。
その意味が分からず呆然としていると、渡はぷっと吹き出した。

「ほら、なんか買いに行こ」
「……そんなに変な顔してたかよ」
「ちょっと写メりたくなる程度には。ぶふっ」
「うっせー黙れ」


俺をからかって主導権を持っていくその姿に、ああ、渡だなと思う。
それはそれで、普段どれだけ振り回されてんだという話だが。少なくとも知り合いが見たら驚く程度にはイメージが崩壊していることだろう。

なんてブツブツと呟いている間に、渡は迷わずサーティツーアイスに足を進めていた。
「え、お前、このクソ寒いのにアイスなんて食うの!?」
「うん。……あ、シングルの抹茶。コーンで

店員が開けたショーケースから、冷気がかすかに立ち昇る。

「見てるだけで寒ィんだけど。ありえねー」
「いやいや、これだから素人は。暖房がガンガンに効いた部屋で、わざわざ体の内側から冷やすこの資源の無駄遣い感がたまらんのよ」

ドヤッと効果音でもつきそうなくらい晴れがましい顔に何も言えないでいると、渡は「青もどう?」なんて言ってきた。絶対ごめんだ。

「俺はケンタでも食うわ」
定番の白いおっさんを顎でしゃくると、渡ははっと思い出したように手を打った。

「そういえば、タクシー代立て替えてもらっちゃったまんまだよね。いくらぐらい掛かった?」
「……ああ、そういえば…でも、そんな高くなかったし、別にいいぜ」
下心もばっちりだったから、何も言えない。
「いいの? わたしさ、いまいちこの前の記憶が無くって。色々迷惑かけちゃってたらごめん」


この前のことはよく覚えていない。
その言葉に、心から救われた。



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