69

「……じゃあ、最初に言っておくけど、わたしは彼とは付き合ってない」
母親は、言った途端に訝しげな顔をした。

「根拠は提示しようがないけどさ、疑うならかお兄に聞いてみてよ。一度会ってるから」
「薫くんが?そうなの、薫くん」
「ああ、偶然、一度だけ。少し話もしましたが、悪い奴じゃないですよ」

でも、かお兄の答えは、「ゆずりはと付き合ってるか否かは、俺には何とも言えませんね」とだけ。

かお兄の曖昧な答えにがっかりしている自分に気付き、思わず苦笑した。

そうか、わたしはかお兄に決めてほしかったんだ。
わたし達の微妙な関係の名前を。
これからどう決断するべきなのかを。

かお兄の眼差しが『甘ったれんな』と言っているようだった。


「だそうだよ、ゆずちゃん。しかも、聞いたところによれば、お前は彼の進学先と同じ高校を志望しているそうじゃないか。仮に今、ゆずちゃんの言うとおり何も無かったとしても、彼と学校生活を送った3年後も同じことが言えるのかい?」

追い打ちをかけるように親父に懸案事項を言い当てられ、何も言えない。
それは確かに、ずっと心のどこかで思っていたことだった。

このまま行けば、青と付き合わないなんて選択肢は無いに等しい。当初の予定なら、好きなように青春した後、卒業式ですっぱり終わらせるつもりだった。


けれど、これから、わたしはそんなことが出来るのだろうか?

青は、わたしのことを「飽きて」くれるのだろうか?


「……わかんない」

「そうか。それじゃあ、僕との約束は破ることになるね? お前にあげられる自由な時間は3年限りしかないんだから」
「ねぇ、親父……」

「ゆずちゃん、今更になって婚約破棄は許しませんよ」
まさに言おうとしていたことを、今まで黙っていた母親は強く言い放った。

「心変わりしたからやっぱりやめた、なんて俊一郎さんに失礼極まりないっ!」
「ムキになりすぎだよ母上。そんなことは言われなくても分かってる」

ほっとしたような母親を見ながら、強く思った。
わたしは、反抗なんていいながら、所詮は『渡』から抜けきれていないのだと。


今、決める時だ。



prev/next
back

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -