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なんとか読書感想文を終わらせ、解放感に満ち溢れていた8月31日。

さつきからメールが来たのは、6時過ぎのことだった。
【至急いつもの公園に来て】

首を傾げながらも、特にやることもなかった俺はさつきの指示に従ってみることにした。


見慣れたバスケコートには夕方だからか、人の気配は無かった。ボールを持っている訳ではないのに、無意識に行ってしまった自分に苦笑しか出てこない。

だが、さつきの姿も無い。

イタズラだったらマジで絞めにいこう、という考えが頭によぎった瞬間、誰かの声が聞こえてきた。


「やっぱ迷わずここに来るんだねー、青」
それはちょっと予想外の人間の声で。

「渡……? 何でお前が」
「んー、メイちゃんにメール頼んどいたの。いいじゃん、サプライズっぽくって」
渡は、ドッキリ成功?と悪戯っぽく笑いながら、俺の方へ足を進めてくる。

青、何か欲しいものある?
そんな言葉が蘇り、俺のためにわざわざ来てくれたのだと思うと、少し嬉しくなった。

「誕生日なのに図書館に来てもらうの悪いしさ」
「ぷぷっ。おま、まだ宿題終わってねぇのかよ」
「終わったよ! そっちこそ読書感想文は終わったの?」
「当然」
「チッ、じゃ仕方ねーな」

軽口を叩きながらも、渡はにっこり笑った。
「ほい、プレゼント」
「開けてみていいか?」
「もっちろん」

差し出された紙袋はそこまで重くない。だが、あの渡のことだ。何が入っていようと覚悟は決めておこう。

「え、心外。何その人生の決断、みたいな顔は」
「お前の性格を鑑みて」
「ひっど!?」

紙袋の中には、小さな白い箱が入っていた。恐る恐るふたを開けてみると、その中には、

「お。意外」
ひんやりとした感触の、濃い青のブレスレットだった。

「意外とは何だ意外とは。で、サイズ合う? とりあえずでかいの買ってきたけど」
「ちょうどいいぜ」
腕に付けてみると、金属製なのに結構軽い。


ふと、ブレスレットの色が青から紫に変わっているのに気付いた。

「それね、体温の変動で色が変わるの。1番低いと青、1番高いと黄色になるんだってさ。身体から離すと青に戻るよ」
「へぇー、面白れぇな」

手首を振ってみても色は変わらない。
反対の手で握りしめてみると、瞬く間に紫が赤っぽくなり、オレンジ、黄色と変化していった。

「気に入ってもらえた?」
「おう。サンキュー、渡」
思わず頭をかくと、渡はくすっと笑った。

「青が照れてる〜ブレス見てみ?」
紫に戻ったはずだったのに、また赤っぽい色に変わっている。

「どわっ! 何だコレ」
「だから、体温が上昇すると色が変わるんだって。それ着けてると嘘つけないね。どんまい」
知り合いには間違ってもそのことを言わないようにしようと、固く心に誓った。


「このままどっか食べに行こっか。せっかくだしわたしの奢りでいいよ」
「よっしゃ。食いまくるぞ」

たまにはマジパ以外にしよ、と渡は踵を返した。
と、次の瞬間、渡は急に足を止めて振り向いた。

ぶつかりそうになる一歩手前だ。
「んだよ。危ねぇな」


「そうそう、忘れてた。
青、誕生日おめでと」


「……おー。サンキュ」


その時、確かにブレスレットは、黄色に染まっていた。



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