68

あの後、熱を計ったら、39度を普通に超えていた。
医者によればインフルエンザということらしい。 1週間半は外出禁止と言い渡されて、テンションがどん底まで落ちたのは言うまでもなかった。


そんな自宅謹慎も、ようやく1週間が経った。
熱自体は3日ほどで下がったため、例のようにマイ和室に引きこもって受験勉強をしている。部屋から出るのが嫌で、勉強時間は1日7時間以上。

よく考えたら、あと2週間もないんだな。
ずいぶん丸が付くようになった過去問を眺めながら、いまさらながら実感した。

「……つか、一般的にはピンチだよな…」
わたしは無意識に赤ペンを一回転させていた。

この謹慎中にひとつ、分かったことがある。
今までわたしは家では勉強できないと思っていたけれど、別に一人でも、図書館じゃなくても勉強はできる。むしろ青といる方がはかどらないのは事実だ。


でも、それでも、また明日から図書館に行きたいと駄々をこねるわたしがいた。


不意にコンコン、とノックの音がして、ゆっくりとふすまが開いた。
今回はかお兄ではなく、使用人のおばさんだ。
「ゆずりは様、お食事ができましたよ」
「はーい。今行く」
ちゃぶ台に赤ペンを放り投げ、よっこいせと重い腰を上げた。


今日の晩ご飯は、病人のわたしを気遣ってのことかうどんだった。もちろんうどんオンリーなのはわたしだけで、かお兄のとかは和定食+ミニうどんセットになっている。

けれど、和やかなのは食卓だけで、それを取り囲む空気は殺伐そのものだった。
やっと出張から帰ってきたらしい親父はちらりとわたしを見ると、はやく座るようにうながした。

「僕がいない間、色々あったみたいだね、ゆずちゃん。熱は下がったかい?」
たぬきうどんをずるずるとすする音が、何とも間抜けに響く。
「うん、まあ」
青のことはもう言っちゃったんだろうな、母親。親父はどんな対応をとるのだろう。

「ゆずちゃん、2か月前の約束は覚えてる?」
ほらきた。
「婚約する代わりに高校3年間は自由にしていい、でしょ」
「そう。だから、これはまだ、約束を破ったとは言えない」

ぱさりと食卓に置かれたのは、青のことを調べあげたらしい数枚の書類と写真だった。
わたしが青の和菓子を食べた瞬間を写した、文化祭のときの写真。
校長に進学拒否されたときにも見たものだ。懐かしいな、とこんな状況でも和んでしまう。

「ウチの校長からもらったの?」
「進学拒否したときの資料を請求したら、ね。別に、ゆずちゃんが倒れたときの家の監視カメラの映像でも良かったんだけど、かさばるから」
親父は間をあけてゆっくりと話した。

怒っているときの話し方だ。


「申し開きがあれば、言ってみて?」
母親もかお兄も、わたしを見た。



prev/next
back

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -