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ほてった顔に真冬の冷気が心地よい。
かと思えば急に足から力が抜ける。

「…っぶね」
膝から崩れ落ちそうになったわたしを、青は片手で引き上げた。

「お前さ、マジでヤバくね? 親かなんかに迎えに来てもらったほうがいいんじゃねぇの?」
「親父とかお兄は会社、母親はお出かけ。つか、いても呼ばない」
ったく…とため息をつきながらも、まんざらでもなさげな青。

男の子なんだな、と改めて思う。
ここまでゴツい男に、いまさら男らしさを認識するのもおかしな話だが。
とにかく、腕とか肩まわりの筋肉がすごい。女の子だったら軽く抱っこできてしまいそうだ。

「青、プリンセスホールド的なのやってよ」
「……お前、熱でもあんのか」
「絶賛発熱中ですが」

無理言うな、と顔を背けられ、結局腕につかまったまま駅前まで出た。



「電車で帰るとか言うんじゃねぇぞ」
15分もかかんないし電車で帰るか。
遠くに見える改札を眺めながらそう思っていると、半ギレ状態の青に止められた。

「……はい」
何で分かったんだろう。

そのまま改札を通り過ぎ、タクシー乗り場まで直進した。
運のいいことに誰も並んでいない。
1台だけ待っていたタクシーに近付くと、後部座席のドアが開いた。

半ば倒れこむようにシートに座ると、青も一緒に乗りこんできた。
運転手は当然のようにドアを閉めながら「どちらまで」とわたしと青を交互に見た。

「え、青、わたしと方面逆でしょ? ついてきてくれなくても良かったのに」
むしろ必要ないような気もする。

「……一人じゃ歩けねーような奴、放って帰れるかよ」

青といると、つくづくわたしって感情に疎いのだと感じさせられる。


「…じゃあ、お言葉に甘えて」

黙って待っていた運転手に住所を告げると、すぐに行き先が分かったらしく、驚いたような顔をした。
「ここから何分くらい掛かります?」
運転手は「30分ほどですかね」と答えると、ギアをパーキングからドライブに変えた。


「……渡。何してんのお前」
「簡易冷えピタぁ〜」
窓ガラスにおでこをくっつけると、ひんやりしていて気持ちいい。

「外から見たらすげえことになってんぞ、絶対」
青の声って、こんな低かったっけ。
「うーん……? そうかも」

「…………いつも熱出てりゃいいのに」

ぼそっと聞こえた一言に突っ込もうとした途端、また目の前が真っ暗になった。



狼狽した青の声が聞こえて、

あ。
と思った時には意識は遠のいていった。



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