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こめかみがピリッと痛くて、視界がいまいち定まらない。
頭が重くて、口内炎が痛い。


あ、風邪か。

わたしの席の前に立ちふさがる女子達をぼんやりと眺めていると、始業式から続いていた感覚の正体がやっと分かった。

「渡さん、初詣に高尾山行った?」
クラスのリーダー格の女子が威圧するようにわたしを見下ろした。わたしは仕方なく耳からイヤホンを外す。
「ああ、うん」

「キセリョとダブルデートしてたって本当?」
クラス中の意識がわたしに集中しているのを感じる。
加藤さんはリーダー格の女子の後ろでちらりとわたしを見て、また俯いた。

「そんなんじゃないよ。友達と初詣行っただけ」
「今更とぼけてもムダだから。文化祭にキセリョ呼んだの、あなたでしょ」
あなた、って(笑)。はっちゃけてる方でもお嬢様口調は抜けきれてない。

「10分休みでも音楽聴いてるような人ですものね」
「制服の改造もなさってますし」
「今朝の礼拝も遅刻でしょう?」
笑えることに、これがウチの学生のスタンダードだ。


「それこそ今更だと思うけどね。で、言いたいことはそれだけ? 曲の続き聴きたいんだけど」
イヤホンを手に取ろうとすると、リーダー格は苛立たしく机を叩いた。

「ねぇ、はぐらかさないでくれない? ちゃんと答えてよ」
不思議なことに、わたしに直談判してくるのはリーダー格だけで、取りまきの女子は助勢もせず見ているだけだ。


みんな『渡』の名を怖がっている。
みんな、渡としてのわたししか見ようとしない。
リーダー格の女子だって、そうだ。由緒ある家柄というプライドにかけて『渡』に喧嘩を売っている。それだけの話。

「だから言ってるじゃん。黄瀬涼太はただの友達。しかも、友達の友達。わたしに彼氏はいないし、作る気もない。まだ文句ある?」
感情を込めなかったのが気に障ったのか、リーダー格は舌打ちした。

「……すました顔してムカつくのよ。汚らわしい」
そこで、ちょうど先生が教室に入ってきたおかげで、尋問タイムは終わりを告げた。


ふう、とため息をつきながらスマホをカバンに突っ込んで、歴史の教科書を取り出した。ノートを開き、日付を書き込む。
一時期、授業にもほとんど出ていなかったことを考えればすごい進歩だ。


数学以外の教科は、授業をちゃんと受ければ受験問題も解けることを知り、わたしはちょっと心を入れ替えたのだった。
担任はしばらく気味が悪そうにわたしを見ていたけれど、授業中の真面目なわたしを見たら、青はどんな反応をするのだろう。

想像して、思わず笑みがこみ上げる。



ささくれだっていた感情が、嘘のように落ち着いていた。



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