61

二礼二拍手一礼でいいんだっけ。
神社でお賽銭を投げる度に悩んでる気がするが、とりあえず願いごとだ。

悔いのない一年が送れますように。


迫り来る人混みに押し出されるように賽銭箱から離れると、少し先にピンクの後ろ姿を見つけた。
人をかき分け、その側へ足を急がせる。はぐれたら大変だ。

「メイちゃーん」
声を張ると、メイちゃんは足を止めて振り向いた。
「ゆずりはちゃん……! 良かった、はぐれちゃったかと思った〜!」
「ごめんごめん。青達はどこ?」

「向こうでおやき買ってるよ」
後でもらおうかな、なんてわたしのお気楽な思考とは打って変わって、メイちゃんはふいに真剣な顔になった。

「ねぇ、さっきのあの子、学校一緒なんでしょ? 見られても大丈夫なの?」

「あ〜、2号ファン多いしね。あの人……加藤さんがそうだったかはわかんないけど」
「それでも、ちょっとヤバいんじゃない?」

事情を知らなければ、わたし達はダブルデートをしてるようにしか見えない。
メイちゃんが心配してくれてるのはそのことだろう。


「大丈夫でしょ、どーせ4月からは通わないんだし。つか今更なんだよねーわたしの場合」
「そっか…って今まで何してきたの」
「飲酒、タバコ、万引き、スリ……「ごめん、もういいや」あ、そう?」
思えば結構まずいこと色々やってるんだな、と反省。


「そーそー、メイちゃんは何お願いした?」
「え!? えっと…」
特に深い意味は無かったが、メイちゃんはなぜか言葉に詰まっている。

「なになに〜、ヒミツなお願い〜? 恋愛成就とかとか?」
「ちちち違うよっ! 全然っ」

図星らしい。

「へぇー、メイちゃんでも落とせない相手なんていんだ。誰それホモ?」
「違うよっっ!!!……たぶん」

「いや冗談のつもりだったんだけど。……うーん、とりあえずバスケ部の人だよね?」
メイちゃんは真っ赤な顔でこくりと頷く。
わたしだったらあっさり陥落だ。

「2号と青は除外でしょ、あと知り合い……」
「あれ? 除外しちゃうの?」
「明らかに友達ノリだったじゃん? そういうの結構鋭い方なんだよね、わたし。うーん、じゃあ……帝?」

「いや……尊敬はできるけど恋愛するとなると…」
ですよね。

「じゃあ、ミドリさん?」
「キャラ濃すぎてムリ」


必死で記憶を探る。
まだ誰か、誰かいたような。

「あっ! ほくろクン!!」
「?」を浮かべるメイちゃんに、黒子なんとか、と言うとボッと顔がゆでダコになった。
ビンゴだ。

「し、知り合い!?」
「うん、2回会った…かな? あーゆータイプって珍しいよね」
「あ、あの、言わないでね!」
「あったりまえじゃん」


恋する女の子はこうも輝くものなのか。
幸せそうな姿が羨ましくもあり、どこか妬ましい。


わたしとは無縁の世界に身を置く彼女に「頑張れ」と言った直後、青の声が聞こえた。



prev/next
back

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -