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腰を落とし、ぐっと拳を固める。
そして、思いっきり息を吸い込んだ。
「「「「グッとパーでわっかれましょっ!!」」」」
行列に並ぶ人々は、鬼気迫るわたし達をぎょっとしたように見た。
リフトの方が行列は短いし、寒いけれど景色もゆっくり楽しめる。
だがわたし達にとって問題なのは、それが2人乗りということだった。
「……あ、分かれたっすね」
「さつきとかよ…マジねーわ……」
「私だってゆずりはちゃんとが良かったよ!」
「まー仕方ないね」
公平な取り決めの結果、わたしはデルモ(笑)と同乗することになったみたいだ。
はーい、もう来るんで準備して下さーい。と係員のおじさんが言った直後、ガンと尻に衝撃がきた。
もっと早く言えよとか思いつつ、動き続けるリフトに腰を下ろす。
頭上のワイヤーからガチャンと音がして、乗り場のコンクリは遠くなっていった。
「これマジでベンチから足取っただけじゃん……青峰っちとならなくて良かった」
「あはは、合計で何キロぐらい?」
2号は今更青ざめながら足元を見下ろす。一応シートベルトで固定されているが、吹きっさらしのリフトは不安定感抜群だ。
「多分160キロぐらいはあるッスね……」
「重っ! まあ最悪落ちても、アンタらならそのまま登山できるでしょ」
「せめて下山させてほしいッス」
少し見上げると、青達の乗るリフトが見えた。やっぱりギャアギャアと騒いでいる。確か英語でargumentって言うんだっけ。
「いつもあんなん?」
「そッスね〜学校でも……つかあの2人、親ぐるみで仲良いッスから」
「ふーん。幼馴染、ねぇ」
幼馴染どころか、いとこぐらいの距離感なんじゃないかとすら思う。
「なになに、もしかしてゆずっち妬いてる?」
「さぁ。別にいいんじゃない?」
え、と2号は面食ったような顔をした。
「ちょっ何で真顔? そこは、そこは、強がって頬を染めながら『違うもん』とか言ってみせるとこっしょ!?」
「はあ? 何で2号ってそう口を開くと残念な訳?」
「ゆずっちには言われたくないッス!!」
よくもまあコロコロと。
2号を見てると、真面目に自分には感情が足りないような気がしてくる。
冷たい人間という自覚はあったが、ここまでとは。
「……青峰っちも報われないッスね……」
その呟きに聞こえない振りをしたわたしと、2号の人間性の違いが浮き彫りになって、苦笑した。
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