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「それじゃあ、君について聞かせてもらおうか」
イケメソはそう言いながら、助手席から振り返った。


現在、タクシーは海沿いの高速道路を走っている。環境に悪そうな工場がいくつも並び、まだまだ都内は遠そうだ。

「名前は……渡ゆずりは。清桜学園の中3で、世田谷区在住。こんなもん?」
「え。清桜って超お嬢な女子校じゃね? あそこって美人多いよな」
「青峰、お前は少し黙ってろ。渡と言えば、もしかしてあの渡グループかい?」

「……うん。よくご存知で」

隣に座る青野郎は、クエスチョンマークを点滅させている。おそらく同い年だろうに、この2人の頭の出来の差は、ある意味ミステリーだ。

「食品販売に始まり、最近は外国企業への融資も活発だと聞くな。スーパー、デパートが有名か。創業は明治後半、名門中の名門だ」
「へー、すげー」
「わたしには全然関係ないよ」
単純バカの視線が、刺さる。

「ベタに行けば、家に反発したお嬢様が非行に走っている、というところだな」

適当に笑って、わたしは話題を変えることにした。


「あっそういや、2人とも行き先は帝光中だったっけ。勿論、中3?」
「ああ」

確か中高一貫ではないのに、今頃合宿なんて行っても大丈夫なのだろうか。
そんなわたしの思考はしっかり読まれていたらしい。

「俺達は推薦枠が必ず用意されているから、部活だけやっていればそれで十分なんだ」
「へぇ、凄い」


「で、君は帝光中について何か知っていることはあるかい?」
バスケの強豪って聞いたことがある、わたしがそう言えば、
「俺らはそこのレギュラーやってんだよ」
青野郎は投げやりにそう言った。

「へー。じゃ、合宿でも行ってたの?」
「そう。近々、全中に出る予定でね。それに向けての強化合宿に行ってたんだけど、どこぞの馬鹿が寝過ごさなければ今日の午前中には帰れたんだよな?」
「お、おう……」
「ふーん」

「……興味なさそうだな」
まるで珍獣でも見たかのような反応だ。
「うん。女子校だし、学芸部だしね。でもそんなに驚くこと?」


「こいつに関して言えば新鮮なことだろうな」


イケメソの意味深な発言を最後に、車内には静寂が訪れた。



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