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「ふゎぁ〜あ、あ〜ねみー」

「ゆずりはちゃん、女の子なんだから手ぐらい当てるっス……」
「だって眠いし。しかも寒いし……ふわぁ」


ぶるっと肩を震わせると、2号は諦めたように苦笑し、首を伸ばして辺りを見回した。

「来てない? あの二人」
「まだみたいっすね。まあ、来たらめっちゃ目立つからすぐ分かるけど…青峰っちルーズだからなぁ」


芸能人っぽくニット帽なんてかぶっている2号と一緒に立っているのは、冬風吹きすさぶ京王線高尾山口駅の改札前。

初詣の行き先を散々協議した結果、高尾山の薬王院に行くことになったのだった。

わたしは初めて来たが、駅の時点で人がごった返しているのには驚いた。さすがは初詣ランキング上位入りを果たしているだけはある。


「現地集合ってかなり無理のある選択のような気が」
「俺もそれは思った……あっ、来た来た。おーい」
2号が手を振った方に目を向けると、人の群れからちょこんと飛び出た青い頭が見えた。


「ゆずりはちゃんあけおめ〜それと久しぶり〜」
メイちゃんは飛びつかんばかりの勢いで駆け寄ってきた。
相変わらずの巨ny……お美しさだ。
「あけましておめでと、メイちゃん」
「わっ!? もう9時15分! もーごめんね、大ちゃんがなかなか起きてこなくて」

2人の家は近いらしいから、行き道で青の家に寄ってから来たのだろう。メイちゃんの後ろをちらっと見ると、青が首をぽりぽりかきながらついてきていた。

「もうっ! 遅いっすよ青峰っち!」
「わりぃ。目覚ましかけ忘れた」

悪びれもしない青に、2号はくどくどと説教を始める。2号がまるでお母さん並の面倒さだ。

「はい、2号、もういいっしょ。青もちょっとは反省しよーね? メイちゃんにも2号にも迷惑かかってるんだから」
「……へーへー。悪かったよ遅れて」
その言葉に、2号は信じられないような顔で青を凝視した。

「え? あの青峰っちが話聞いて謝ってる!?」
ひでーと呟く青に、勿論フォローを入れる者はない。


「わたしの手にかかればざっとこんなものよ」
「これからゆずっちと呼ばせて下さいッス!!」
たまごっちか、とツッコミたくなったが、2号の眼差しは意外と真剣で、それはこらえることにした。



駅を出て、昔ながらの商店が立ち並ぶ坂道を人混みに揉まれながら上ること数十分。やっと登山口が見えてきた。

登山をスキップできる天の配剤としては、ケーブルカー乗り場、リフト乗り場と2つあった。
寒い中ベンチを引っ掛けただけみたいなリフトに乗るのもあれだが、ケーブルカーの行列は凄まじいものがある。


どうする? と聞いてみると、
「フツーに歩いてきゃいんじゃね?」
予想はしていたが、青からはそんな答えが返ってきた。

「…あのさぁ、桃っちとゆずっちの格好見よーよ。ミュールにブーツじゃどー考えても無理っスよ。ここ、一応登山道っすからね?」
「さすがきーちゃん、大ちゃんとは大違い」
「山行くの分かってんのにそんな格好してくる方が悪いだろ」


喧嘩に発展する前に青を黙らせよう。

「あーやだやだ。モテない男はこれだから」


「大きなお世話だよ!!」



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