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「メールが送信されました」
お決まりの手紙のイラストを確認して、ついでに時間も見ておく。

19:27。
そろそろ夕食の時間ならば、飲んだお抹茶セットをひとまとめにする。案の定、コンコンとノックの音がした。

「ゆずりは、飯だよ。引きこもりタイムは終わり」
扉ごしにかお兄の声がした。

いつもなら呼びに来るのは使用人だ。何かあっただろうかと首を傾げかけ、大晦日だからほとんどの使用人が出払っていることを思い出した。

「ごめん、すぐ行く」
母親にとってかお兄は、使用人程度の認識しかないらしい。

今に始まったことではないけれど、15歳しか年が離れていないから子供としても見れないのも分かるけれど、

胸糞悪い。



「あの部屋さ、窓が無いのが難点だよな」
食堂へ向かう長い廊下を歩きながら、かお兄はおもむろに口を開いた。

「へ?」
「和室だよ、お前の。外から完全に遮断されてる代わりに、中でエネルギーがこもってる気がする。どうせほとんど物置いてないんだし一日ぐらい開け放せば?」

かお兄はわたしの顔を見て、笑ってみせた。母親について考えていたことはまるで筒抜けだったらしい。
なんか、どうしようもなく格好悪い。

「……いいの。ここでのわたしの居場所、あの茶室だけだから」
「四畳半がいいなんてモノ好きだな。十畳以上ある寝室に風呂トイレ完備のマイルームがあるだろうに」

「わたしは全然しがないアパートの六畳ワンルームでいいんだけどね〜…あ、でも高校生になったらそれも可能なんだったけか」
親父は一人暮らしも許可すると言っていたような気がする。婚約さえするなら。


「……ゆずりは。本当にこのまま婚約する気なのか?」
不意に真剣さを帯びたその声に、少し驚いた。

「何で? 親父の気の変わらない内に自由をもらっとかないと損じゃん」
「それが、制限つきの自由でも?」

そう、3年。
高校の、おそらく桐皇高校の卒業式を迎えた瞬間、わたしの自由は終わりを告げる。その3年間がどんなに楽しくても、

……どんな人間と恋愛をしても、終わらせなければならない。
そして、その先にあるのは好きでもない男と家に拘束される一生。

わたしは耐えられるのだろうか?


「大丈夫だよ。世界中を飛び回る仕事に就く予定だもん」

母親がいる限り、違う形で政略結婚させられることにはなるだろうから。そう言うと、かお兄は眉根を寄せた。

「…受け入れるのか。不思議だな、遅かれ早かれ家と縁を切ってしてしまうかと踏んでいたんだけどな」

「わたしを育ててくれたことについて、義務を果たさなきゃいけないから。母親には、さ」
口に出してみて、自分が母親にそれ以外の感情を抱いていないことに驚いた。

「どこまでも公平だな、ゆずりは」

「ありがとう、かお兄」



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