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雨天のため、当アトラクションは次回の便で運休とさせて頂きます、そんなアナウンスが流れたのは15分前。
だが、幸運を素直に喜べたのも15分前で。

「さびぃ」

この、ワンダードロップという名前のアトラクションは、いわゆるびしょ濡れ系ジェットコースターだった。

濡れるのが気にならなかったのは乗っていた時だけで、チケット売り場の陰で雨宿りをしているちょうど今、猛烈に寒さが襲ってきている。

「やみそうも無いねぇ……ぶぇっくしょっい!…あースッキリ」
「……さぶ」
「ねぇ、何で無かったことにしたのよ、ねぇ」
「なんかあったかいもんでも飲むか」
「聞けやコラ」

入れた硬貨が自販機の中に落ちていく音を聞きながら、どれにしようかと悩んでいると、おもむろに渡の指がのびてきた。
だが、気付いた時にはもう遅く、

カラン、ガラガラ。

「毎度ありー」
渡は取り出した缶のふたを開けながら、悪びれもせず言い放った。

「……て・め・え」
「キレたキレた。ははははー」
甘ったるい香りがふわりと鼻をかすめる。
ココアだ。

「ったくお前はもう……金返せ、金」
「へいへい。青の分買ってあげるから、それであいこっしょ」
「あったりめーだ」

渡が小銭を投入したのを確認して、「あったか〜い」ゾーンに目を移す。どれにしようか。

「青って結構優柔不断だよね。悩みすぎだっつの」
「っせーな。もう決まったよ」
ゆずれもんを取り出しながら、俺はちょっとどきりとしていた。

渡に切って捨てられた、優柔不断という言葉に。

「うわっ、それ買ったんすか」
「ココア飲んでる奴に言われたくねー」
「そりゃま乙女だし、許されるっしょ」
「ホットドッグで妄想できる女が何を言う」

渡に、俺の感情を全て見透かされてるんじゃないかと思う時がしばしばある。
こんな馬鹿話を展開しているとつい忘れてしまうが、ふとした瞬間にその鋭さを垣間見て、思い出す。

優柔不断という言葉も、煮えきれない俺に向けられているような気がしてならなかった。


「……雨、やまねぇな」
「せっかくクリスマスなのにね」

もう5時を過ぎていることもあってか、諦めて家路につく客はどんどん増えている。

「俺らもそろそろ帰るか」
だが、返ってきた答えは予想外に強いものだった。

「嫌。……家なんか、帰りたくない」


降りしきる雨は、止みそうもなかった。



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