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どこのアトラクションも凄い混雑で、ザ・ダイブとお化け屋敷に行ったところでとうに1時半を過ぎていた。
「あー、腹減った。そろそろ飯食わねぇ?」
俺がそう言うと、渡も同じだったらしくあっさり同意した。
「でも、どこで食べよ?」
どこを見ても、人、人、人。
当然、レストランなどは混雑の極みだろう。早く食べたい、という見解が渡と一致したため、比較的行列の短い外の売店に並ぶことにした。
「にしてもさー、青ってやっぱ相当運動神経良いんだね」
「そりゃどーも?」
渡は褒めるというより、心底面白そうに言う。
「だって、お化け屋敷とかヤバかったじゃん。何か出てきた瞬間に0.2秒ぐらいの反応で3mぐらい後退ってたし。ひゃはは、ウーケーる」
「うっせーよ! ! 暗い上にカーテンばっかひらひらひらひら覆いやがって!」
「いや、キレないでよ。お化け屋敷ってそんなもんだし」
少女漫画チックな展開を期待して入ったことを後悔した瞬間はよく憶えている。
真面目に怖かった。
「……お前の神経マジで疑ったわ」
「ひっどぉ〜、たかが作りもんじゃん」
「いや、セットをいじりまわしてる客なんてそうそういねーと思うぞ!?」
渡は風呂に入った変死体のセットを「どうなってんのこれ」とか言いながら触れる神経の持ち主だ。
俺はもちろん「どわぁぁぁ!?」と絶叫したが。
「あーゆーのって作るの絶対楽しいと思うんだよねー」
「出口の係員、お前の顔見てびっくりしてたけどな」
と、そんなことを言っている間に、注文の順番が回ってきた。
無難にホットドッグとフライドポテトを注文する。渡はハンバーガーを頼んだようだった。
「渡、立ち食いでいいよな?」
「別にいいよ。……あ、ホットドッグにしたんだ」
思いっきりかぶりつこうとすると、渡は若干の感慨を込めてそう言った。
「あ?」
渡はその解答を黙って目で示した。
視線の先にいたのは、俺と同じようにホットドッグを頬張る女で、思わずなるほどと納得する。
「もうっちょい下向いてくれると完璧なんだけどなぁ。構図的に」
「確かに……
っておいィィィ!?」
本気で渡の性別を疑いたくなった。
「あーもう、うっさいな。ほら、人間慣れが大事だよ?」
「これ多分慣れちゃ駄目な類だと思うんだけど!? マジで女としてどーなのお前」
「何言ってんの。さすがに女の子の前だと言わないよ。ドン引かれるもん」
「俺も引いたっつの」
で、そんな俺の昼飯も例のアレな訳で。さすがに渡の目の前で食う気は失せた。
「あれ? 青、何でそっぽむいてんの?」
「こっち見んな変態」
「大丈夫、男がやってもキモいだけだから」
「変態度3割増し!!」
後ろを向いたまま5秒でかけこむと、渡は小さく舌打ちした。
全然大丈夫じゃねーじゃねぇかと言ってやりたかったが、口の中にものが多すぎてそれどころじゃない。
「ぷはっ、リスみたい」
うかつにもごもごと言い返せば余計に笑われるのが予想できたから黙っていると、渡は場内マップを開いた。
目で字を追いながら、ハンバーガーを口に運んでいく。渡の育ちはこんなところにも出るらしく、食べる動作が無駄に綺麗だ。
「んー、何? どっか行きたいとこある?」
「いや、綺麗に食べんのな、お前」
さすがお嬢、という一言を意図的に消す。渡が家関連について言われたくないらしいことは、経験上分かっていた。
「あ、そう? どもども」
ちょっとは渡に近付けたのだろうか、なんて内心舞い上がってみたりもした。prev/next
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