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毎年学校で過ごす羽目になる、聖なる日とは名ばかりのクリスマス・イブ。
だが、今年は奇跡的に休日だった(リアルに)。

「ちわー、早かったね」
ベージュのタートルネックに濃紺のキュロット、長いブーツにガウンを羽織って、渡はいつもの改札の前に立っていた。

コスプレじゃない渡の私服を見るのは、初対面の時以来ということにふと気付いた。

「……おいおい、こんな日まで勉強すんのかよ」
渡の、明らかに遊び用じゃないバックを見ながら大あくびをかましてみる。
【今暇?】
なんてメールで叩き起こされたのだ、ちょっとくらいは俺に発言権があってもいいと思う。


まだ11時過ぎなのにも関わらず、駅は心なしか人口密度が高い。わんさかいるカップル共を横目に歩いていると、渡は思い出したように声を上げた。
「あ、今日休日じゃん!」
「何を今更言ってんだお前は」
「祝日は図書館も休みだってば。……あー、わたし馬鹿かも」

期待を込めて足を止めると、渡はくるりと踵を返した。
「青、どうする?」
「どうするったって……強引に呼び出しといて帰れ、はねぇよなあ?」

「ごめんごめん。じゃ、せっかくだし今日一日ぐらい遊んじゃおーか」
ほんのちょっとだけ、神の存在を感じたような気がした。



どこ行こう、と協議した結果俺たちがやって来たのは、

「東京ドームシティアトラクションズなう」

「テンション高いなおい」
丸ノ内線の後楽園駅を降りてすぐもう遊園地が広がっていた。クリスマスで振替休日とくれば、さすがにすごい人混みだ。

「ここ入場料タダなんでしょ? どっからいく?」
渡はきょろきょろと辺りを見回し、どこからかパンフを取ってきた。
「どこでもいーぜ」
「んじゃーどこにしよ……」

マップに目を落としながら歩く渡に、すれ違った人間がぶつかりそうになった。無意識に肩を引き寄せると、渡は驚いたように顔を上げた。
「ん?」
「いや、ぶつかりそうだったから、何となく」
「そ。ありがと」

こんな会話をしていると、付き合ってるみたいだ、なんて錯覚も起こしてしまう。
それが錯覚に過ぎないことは百も承知だが、それでも、やっていることは遜色ない。と憐れに主張し続ける俺がいた。

「よし、決めた。ザ・ダイブ行こ」
「おー、じゃあそれで。どんなやつ?」
「えっとねー……」


珍しくはしゃぐ渡の姿に、細かいことを悩んでいる自分が途端に馬鹿らしく思えた。



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