3

飛行機は、おおむね時間通りに到着した。

ところが青野郎は血相を変えてすたすたと行ってしまった。何を急いでいたかは知らないが、結局何のお咎めもなしだ。

その答えは退場ゲートを見て分かった。
青野郎は待ち構えていた赤い髪のイケメソにめったくそに怒られている。
身長差はかなりあるのに、青野郎が弱っちく見えるのは錯覚か否か。

ともあれこのラッキーを頂かない手はないと、こそこそと通り過ぎようとしたそのときだった。

「あ、待てよ、変態スリ女!」
「スリだと? どういうことだ、青峰」

イケメソの肩には、帝光と大きくプリントされたエナメルバッグがかけられている。よく見れば、バスケットボールと書いてあった。

つまり彼らは、わたしがそんな描写が出来るくらい迫ってきている訳で。
…… 詰んだ。さよならわたしの希望。


「爆睡してたら、財布すられかけたんだよ」

胸ポッケに財布を突っ込んでる方が悪いんですよっ、と心の中で舌を出すと、青野郎はスったとき同様、ぎょろりとわたしを睨んだ。お前まじめに人間か。

「……わたしはどうすれば」
「まあ、そうだな。被害額の3倍が妥当だろうな。住所と氏名、連絡先は必須、それに学校名ぐらいは言ってもらおうか」
「でも、被害額って言われても、わたし1円も頂いてないよ?」

疑りを絵に描いたような目つきで、イケメソは青野郎を見上げた。

「あー、そういえば俺の財布、札入ってないわ」
「はあ?」
「飛行機乗り遅れてよ、「だから俺がずっと待たされてたんだがな?」……わりぃ。で、追加で切符代を払ったら、残額150円ぐらいになっちまった」

ここで吹き出さなかったわたしは偉いと思う。

「……かける言葉も見つからないな」
それで、とイケメソはわたしに視線を戻した。

「俺も責任者として1時間近く待たされていてね、 合宿帰りというのもあって疲労困憊なんだよ。口止め料として、タクシー代の肩代わりというのでどうだい?」

「ああ、それなら全然平気。わたしもタクシーで帰るつもりだったし」

予想外に簡単なオーダーにほっと胸を撫で下ろした。



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