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「今度は何? 走るんじゃないの?」
足を止めると、不機嫌そうな渡の声が背中ごしに聞こえた。
息はまだ整っていないらしく、荒い呼吸が言葉に混じる。

「……ワリ」
振り向かないで、ぱっと手だけ離した。

大型のトレーラーが目の前を走り抜け、突風に煽られた。駅に向かう人々が、歩道のど真ん中で立ち尽くす俺達に好奇の視線を向けつつ通りすぎていく。


俺は一体何してんだ。そうとしか言いようが無かった。


「……あ、ほくろクン」
「え!?」
思わず、どこにと聞きかけて、やっと渡の口角が上がっていることに気付いた。
「ばーか。なに引っかかっちゃってんの」

「…レベル低ッ!」
「そちらこそ」
渡は何事もなかったかのように、すっと俺の前に立った。

こっちから頭を下げないと口もきいてくれないかと思っていたのに、渡は全くいつも通りだ。

気まずいとかそんなことよりも、嫌われてなくて心底ほっとしている俺がいた。

大きく息を吐き出しながら肩の力を抜き、目を閉じる。
今なら、きっと謝れる。

「悪か「ごめん」…った」

渡は何度も目を瞬かせた。おそらく俺も同じように呆気にとられているのだろう。
顔を見合わせ、同時に吹き出した。

「け、傑作…ッ」
「貴重なシリアスが8行でぶっ壊れたな」
「そーゆー貴方も声震えてますよー」
「☆」

今度は渡の歩調に合わせ、駅に向かって歩き出す。
ずっと心にのしかかっていた重荷が、嘘のようになくなった気がした。


とりあえず手を握ったことは無かったことにして。



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